「何歳まで生きるか」だけでなく、「どう年齢を重ねるか」が注目されるなか、森永乳業が50年以上にわたって研究してきたビフィズス菌の可能性を「老化」へと広げている。背景にあるのが、腸内細菌叢や慢性炎症と老化との関係だ。ビフィズス菌が老化速度にどう関与するのか――。新たな研究成果を足掛かりに、同社はそのメカニズムの解明を進める。
1969年に発見した「ビフィズス菌BB536」を起点に、整腸、免疫、認知機能などへ研究領域を広げてきた。今年7月には、BB536配合ヨーグルトの摂取と食事・運動習慣の改善によって、老化の進行速度を示す指標が低下する可能性を確認したと発表した。食品介入による老化に関する臨床試験において日本初となる。
研究では、50~74歳の過体重男性を対象に、BB536配合プレーンヨーグルトの摂取と食事・運動習慣の改善を3カ月間実施。その結果、DNAメチル化情報から算出する生物学的な老化速度の指標「DunedinPACE」が、対照群に比べ約2.3%低下した。一方、老化速度の変化とBMIや、運動頻度変化との相関性は認められなかったという。
ただし今回の研究は、BB536単体の効果を検証したものではなく、現時点でビフィズス菌が老化そのものを抑えるとは結論付けられない。今後はBB536の効果や、老化速度に影響するメカニズムの解明を進める。
そのメカニズム研究のひとつが炎症制御だ。腸内のビフィズス菌割合が高い人ほど炎症応答性が低い傾向がみられたほか、ビフィズス菌由来成分が免疫細胞の過剰な炎症反応を抑える可能性も確認した。慢性炎症は認知機能やさまざまな疾患との関わりが指摘されており、宮地一裕取締役常務執行役員研究本部長は「健康で長生きする上で、慢性炎症を抑えていくことが重要」と指摘する。腸内環境、免疫、炎症、認知機能、老化など、研究領域を広げながら、ビフィズス菌がヒトの健康にどう関わるのかを検証していく。
50年以上の研究を「食品」に生かす
同社のビフィズス菌研究の原点は、健康な乳児の腸内にビフィズス菌が多いことへの着目だった。1969年にBB536が発見されて以来ヨーグルトへの応用を進めたほか、菌末、育児用食品、BtoB向け原料などへ領域を広げてきた。これまでに30カ国以上で食品に使用されてきた。

長年の研究で培ってきたのは、菌の機能研究だけではない。酸素や酸に弱いビフィズス菌を食品の中で生かすため、菌の培養方法や乳酸菌との組み合わせなど、食品に利用する技術も積み重ねてきた。
宮地氏は同社の強みについて、「ヒトに適した菌を見つけ、その機能を研究し、食品に利用できる形に開発し、さらに食品の中で菌の機能を生かすところまで、BtoBからBtoCまで一貫して行っている点」と話す。
こうした研究成果を人々の健康につなげるうえで重視するのが「長く続けてもらうこと」だ。「数千円もしたら毎日続けられない。100円、200円で購入できる手頃さも大切。ヨーグルトだけではなく、飲料、育児用食品、サプリメントなど、さまざまな形で当社のビフィズス菌を届けたい」と展望する。
菌体事業を成長ドライバーに
ビフィズス菌を含む菌体は、森永乳業の成長領域の一つに位置付けられる。菌体事業は前期に約25%増収となり、8年前と比べ約3倍に成長。今中計では経営資源を集中投下し、4年間で2倍への拡大を目指す。
腸内フローラへの関心が高い海外での成長に向けた研究体制も強化している。2025年6月には、菌体の基礎・応用研究から商用活用まで一貫して担う「バイオティクス研究所」を新設。研究員の増員も計画し、海外市場で求められるエビデンスの強化を進めている。
育児用ミルクを展開する東南アジアやパキスタンなどを中心に、高付加価値商品の開発や新たな菌の研究にも取り組む。ビフィズス菌を「人生の各ステージに寄り添う一生のパートナー」に――。50年以上の研究蓄積を生かし、森永乳業はビフィズス菌の可能性をさらに広げていく。
