逆光線(コラム)記憶に残る価値
カナエ モノマテリアルパッケージ

記憶に残る価値

 今年の桜は、雨が間に挟まったせいか花の量が少なく、例年より控えめに見えた。老木が増えているとも聞くが、それでも笑い声を交わしながら食事を楽しむ人たちの姿は変わらない。花の香りや湿った土の匂いが、幼い頃の記憶を呼び起こす。心理学ではこうした現象をプルースト効果と呼ぶが、新生活が始まる季節はその思いを一層強くさせる。

▼食べ物もまた、記憶を呼び起こす。久々に口にした駄菓子が幼い頃の感情を連れてきて、胸がきゅっとなる。当時の高揚感が一瞬でよみがえるから不思議だ。

▼食品業界における「情緒的価値」は、価格だけでは測れない価値を指す。印象に残るパッケージ、袋を開けた瞬間の匂い、ひと口目の驚き――。数年後に「あの頃よく食べた」と思い出に浸る、人の心に長くとどまる商品こそ真のヒット商品かもしれない。

▼昭和・平成レトロが長く支持されるのも、懐かしさが単なるコスパでは代えがたい、かけがえのない思い出だからだろう。物価高で財布のひもは固いが、心を動かす一品に出合う余白は残しておきたい。春は、新しい記憶を仕込む季節でもある。

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