令和の缶チューハイブーム? ソーダ割りにお茶割りも 「RTD焼酎」が熱い!

昭和の缶チューハイブームから40年。令和の時代に「焼酎を缶で楽しむ」新たなムーブメントが静かに広がっている。これまで瓶や紙パックで親しまれてきた焼酎ブランドが、手軽に楽しめる缶で続々と登場。その中心は、本格焼酎でも定着するソーダ割り、そして古くて新しいお茶割りだ。長く市場低迷が続く焼酎のファン拡大に向けた一手となるのか。

1980年代、ヒット商品「純」で焼酎の復権を果たした宝酒造が次に目をつけたのが、居酒屋チェーンで人気を集めていた焼酎のハイボール=チューハイだった。

当時は瓶のラインしかなかった工場に、思い切った投資で最新鋭の缶ラインを導入。84年1月、満を持してデビューした「タカラcanチューハイ」は社会現象ともいえるブームを巻き起こし、現在隆盛をきわめるRTD(Ready to drink=開栓してすぐ飲める)市場の礎を築いた。

レモン系フレーバーを中心とした“いわゆる缶チューハイ”が主流を占める現在のRTD市場だが、これとは別の流れも存在感を増している。「原酒ソーダ」と呼ばれるジャンルだ。

これまでの缶チューハイが競っていたのは、いわば果実などのフレーバーによる差別化。ウオッカが使われることの多い原酒は、あくまでもそれを引き立たせるための無味無臭のベースにすぎなかった。

風向きを変えたのが、サントリーが22年春に発売した「翠ジンソーダ缶」の登場だ。

同社の国産ジン「翠」を缶で手軽に楽しめるようにしたことで、ジン飲用層のすそ野を一気に拡大。同時に「原酒のおいしさをソーダ割りで引き立てる」という、これまでウイスキーハイボールで楽しまれてきた飲み方を、ウイスキー以外の原酒にも広げるきっかけを作った。

従来はソーダ割りが甲類ほど一般的ではなかった本格焼酎にも、この動きが波及。キリンビールが23年9月に発売した「キリン 上々 焼酎ソーダ」は、グループのメルシャンが展開する八代不知火蔵の本格麦焼酎原酒を一部使用したRTDだ。

本格麦焼酎「いいちこ」で焼酎市場を牽引する三和酒類も、コンビニチェーン各社との共同開発によるRTDを次々と投入。セブン-イレブンとのコラボによる「いいちこハイボール」に続き、今年5月には「iichiko 爽和 ハイボール」がファミリーマート限定で登場した。

宝酒造も「『ISAINA』芋焼酎ソーダ5%350㎖」を今春発売している。また同社の甲類焼酎「極上〈宝焼酎〉」を炭酸で割っただけの缶入り商品「タンチュー」は発売から2年。当初は苦戦していたが、原酒ソーダのブームも背景に、ここにきて配荷が急速に広がってきた。

缶入りながら本来はRTDではなく、レモンを絞るなどひと手間加えて飲むことを想定した商品だった。だがその意図を離れ、何も手を加えず焼酎の味そのものを楽しむユーザーの支持が拡大。「甲類焼酎を味わう」という他にはない缶製品として、コアなファンをつかみつつある。

他方、この3年ほど続くもう一つのブームが、焼酎のお茶割り。もともと飲食店を中心に広く普及し、RTDも商品化されていたものの、どちらかといえば中高年層に親しまれてきた飲み方だった。ところがここ数年で、これが若い世代に「新しい飲み方」として再発見されたのだ。

「ユーザー調査でも、家庭でお茶割りを楽しむ方が増えており、とりわけ若年層で目立っている。決して真新しいものではないが、あるとき渋谷センター街のコンビニで、お茶割りの缶の売れ行きが異常値を示している、ライブハウスに行く若者が買って飲んでいるというようだ、という話が出たのが最初だった」(宝酒造 商品第一部企画課長・佃裕之氏)。

同社では「極上宝焼酎でお茶割りが旨い。」とのメッセージを伝えるサイトを今春から公開。「極上〈宝焼酎〉」に含まれる樽貯蔵熟成酒とお茶の成分との相性の良さを紹介し、手軽に楽しめるRTD「お茶割り缶」もアピールする。

また居酒屋などで「JJ」の愛称で若者に親しまれる“ジャスミン焼酎のジャスミン茶割り”も、ブームの火付け役の一つ。サントリーのジャスミン焼酎「茉莉花」は業務用ルートを中心に販売を急拡大したのに続き、昨春に発売したRTD「茉莉花缶」がヒット。認知度が一気に高まった。

さらにオエノングループは、合同酒精のロングセラーしそ焼酎「鍛高譚」のお茶割り“鍛茶(たんちゃ)”の飲み方提案を業務用・家庭用連動で継続展開。SNSでのコミュニケーション強化も奏功し、昨年も「鍛高譚パック」は130%と好調だ。

鍛茶は、このほど満を持してRTD化。「鍛高譚の緑茶ハイ」と「TAN TAKA TAN SHISO梅酒の紅茶ハイ」を一部エリアのセブン-イレブン店舗で10日から先行発売した。それぞれ赤シソの爽やかな風味と、緑茶・紅茶との組み合わせによる絶妙な味わいが特徴だ。

これらRTD焼酎の主戦場は、若年層にも身近なコンビニ。缶を入口に瓶を手に取るようになったユーザーが現れるなど、ブランド全体の活性化につながっている事例もみられる。飲用層の固定化が課題の焼酎市場にとって、ユーザーの若返りとすそ野拡大に向けた強力な武器となりそうだ。