健康志向や食生活改善意識の高まりの中で、大豆ミート(代替肉)や植物性ミルクを使用したヨーグルト、アイスなどプラントベースフード市場が伸長している。大豆は植物性タンパク質が豊富で、中性脂肪・コレステロールを低減する効果が認められる。また、植物性エストロゲン(女性ホルモン)とも呼ばれる大豆イソフラボンは、更年期障害の軽減や骨形成といった機能性も期待され、食品メーカー各社は大豆の食材使用に関心を高めている。宮城大学食産業学群・金内誠教授は、地域企業との連携により発酵技術を活用した大豆の商品開発に挑み、「乳アレルギーの子どもたちも楽しめる、美味しい豆乳チーズ作り」を目指す。
金内教授は「味噌・醤油・納豆など大豆は発酵させることで嗜好性が増すが、そもそも大豆加工のバリエーションは限定的で食材としての汎用性は低い」と指摘する。一方、食品の大きな課題の一つにアレルギーの問題があり、「乳を大豆に置き換えることは食品産業にとって非常に有用」として、大豆から豆乳チーズを作る研究開発に着手したという。「豆乳チーズの多くは凝固剤として酸を使用している。食感がパサパサでえぐ味も残る。われわれはワイン酵母(サッカロミセス・バヤヌス)と乳酸菌で豆乳を固め、凝固物に油脂を加える。滑らかな舌触りや酸味、濃厚な味わいは有名ブランドのクリームチーズと比べても遜色がない」と胸を張る。
大豆の青臭さの主成分・ヘキサナールは機器分析できないレベルにまで低減。「市販の豆乳を発酵させても大豆臭が残る。われわれは豆乳チーズに適した豆乳作りから研究開発を進めた」としている。豆乳作りでは、大量の水を投入して大豆を摩砕する。加えた大量の水を抜くため、専用タンクなど設備面での対応が必要となる。豆乳発酵には高度な技術も必要で、商品化には地域の意欲ある食品メーカーとの連携が必要だった。
「発酵豆乳スプレ」として初めて試験販売したのが2019年のこと。宮城大学の産学連携を推進する「研究推進・地域未来共創センター」(センター長・風見正三氏)によるマッチングで、惣菜・漬物など業務用食品を手掛ける二上(宮城県栗原市・二上達也社長)と商品開発を進めた。「商品化に向けた最後の難関は殺菌工程だった。酵母・乳酸菌とも70℃で30分加熱すると完全に殺菌できることは分かっていたが、二上の持つスチームコンベクションを活用し殺菌温度を常時一定に保つことで解決できた」と振り返る。今後、二上は大量生産に向けた体制整備を図り、コロッケなど惣菜メーカー向けの拡販を狙う。
「発酵豆乳スプレ」の最大の特徴は、冷凍保存が可能で自然解凍後も6か月間は品質・味が全く変化しないこと。冷凍保存が可能となれば、海外への輸出も視野に入ってくる。「海外メーカーや大学・研究機関から問い合わせをいただくことも多い。将来的にはアメリカ市場への輸出も検討したい」と抱負を語る。さらに「新たな天然酵母を見いだし、クリームチーズだけでなく、プロセスチーズやカマンベールなど本格的なチーズ開発へと研究を多様化させたい」と意欲をのぞかせる。