尊敬されない「最後の人」

4月に行われた食品の値上げは約5千品目だった。月末月初に報道される定例ニュースは、物価高に麻痺しつつある消費者にとって季語にすら感じる。

▼1~3月に全国の乾麺メーカーを取材した。この数年の麦価やそば粉の高騰とコスト高は凄まじく、中小零細が多い業界にとって企業存続も危ぶまれる事態だ。値上げ交渉は比較的進んでいるが、大手メーカーのようにはいかない。「長年取引のある流通にお願いした途端に切られた」という話もまだまだ聞く。

▼そのなかで印象的だったのが「消費者の方が物価高を理解してくれていて、店頭に並べば売れる」という言葉だった。値上げすると「売れない」のではなく「売ってくれない」。値上げに難色を示すのは消費者ではなく、流通だというのだ。ただし、スーパーにとっても巣ごもり特需から一転、再び需要は縮小していて厳しい環境だ。エネルギー費等の固定費上昇、異業種の参入など多くの問題を抱え、容易に転嫁できない事情もある。

▼食品スーパーの2月決算は値上げ効果で粗利が回復した。競合より1円でも安くするため最後まで価格転嫁したくない気持ちを分からないでもないが、「最後の人」が尊敬されるのは映画や唄の世界だけだ。