サンゴ礁の森に自生するコーヒーで捲土重来 経済どん底のロタ島がコーヒー6次産業化に全力 UCCとトライアスロンクラブが支援

 サンゴ礁の森に自生するコーヒーの大発見を契機に、観光客の激減にあえぐ米国領北マリアナ諸島のロタ島が捲土重来を期し、コーヒーの6次産業化に向けて全力投球している。

 ロタ島ひいてはマリアナ諸島の再興へと、このような機運を醸成するところからサポートしているのはKFCトライアスロンクラブとUCC上島珈琲(UCC)。

 8月25日、支援開始以来初となる大規模な収穫を控えるタイミングで、UCCはロタ市とコーヒー栽培の技術指導に関するアドバイザリー契約を締結した。

サンゴ礁の森。両脇の壁のようにみえるのがサンゴ礁。 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
サンゴ礁の森。両脇の壁のようにみえるのがサンゴ礁。

 その内容について、9月30日発表したUCCの中平尚己農事調査室室長は「我々の農業技術を加工のところまで提供することで出来上がったコーヒーの一部を日本で優先的に販売する権利をいただくという内容だが、実際には島の産業を盛り上げることが目的」と説明する。

 UCCとしてはロタ島への支援を「UCCサステナビリティ指針」で重要課題に定められる「農家の方々の生計」や「森林保全」の一環と位置付けている。
 
 現在、ロタ島には標高約500mのサバナ高原に拓かれた20 haの市営コーヒー農場があり、サバナ高原周辺のアスアコド地区(標高約300m)のサンゴ礁が隆起した森にもコーヒーノキが自生している。

 農場には半分の敷地に400本のコーヒーの苗木が植わり、収穫量は「今年恐らく数十キログラムの収穫があり来年以降、ギリギリ1トンくらいまで増えるレベル」を見込む。

左からロタ市のアタリック市長、UCCの中平尚己農事調査室室長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
左からロタ市のアタリック市長、UCCの中平尚己農事調査室室長

 3年後に40haへの農地拡大と製品化を目指す。

 「収量の半分くらいが輸出規格になると言われていることから20haで5トンの焙煎豆がつくれる。他の地域でも栽培できるようになれば生産能力は10トンに上るとみている。量は少ないが、少ないからこそ付加価値のあるコーヒーとして商品化する必要がある」との見方を示す。

 一方、サンゴ礁が隆起した森に自生するコーヒーノキは、今後も人の手を加えることなく観光資源として活用する。フォレストコーヒーとして打ち出しエコツーリストやコーヒー関係者を呼び込むのが狙いだ。

 「農場(サバナ高原)と森(アスアコド地区)は近いため、1つのトレッキングコースのルートで森から農場まで来てもらえるようにし、最後に休憩所のような場所でコーヒーを飲んでいただく」との青写真を描く。

400本のコーヒーの苗木が植わる市営コーヒー農場 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
400本のコーヒーの苗木が植わる市営コーヒー農場

 観光を主要産業とするロタ島経済は現在、観光客の激減でどん底状態にある。

 2001年のアメリカ同時多発テロで世界の航空業界はテロ対策のセキュリティー強化でコストがかさみ利益の出ない路線を廃止・縮小。日本航空も05年にサイパン路線から撤退した。さらに新型コロナウイルスによる観光客の激減が追い討ちをかけている。

 そうした中、航空便のアクセスの悪さからロタ島で長年続けてきたトライアスロン大会が中止となり、その大会の旗振り役で、ロタ島経済の衰退を目の当たりにしてきたKFCトライアスロンクラブの大西喜代一代表が再興へと立ち上がる。

 そのための産業を考えるにあたり、大西代表は、20年以上前にロタ島民宅でロタ島産として出されたコーヒーを飲んだ記憶と島の伝承や昔話を頼りに、森の中にコーヒーノキが自生していることを直感する。

 この直感のもと、ロタ市のアタリック市長を動かし17年に「ロタコーヒープロジェクト」を立ち上げ、その1年後の18年6月に野生のコーヒーノキが森の中から発見される。

 しかし、大西代表も島民もコーヒーに関する知識を持ち合わせていなかった。
そこでUCCのホームページのお客様窓口にメールを入れて問い合わせたところ中平室長につながりUCCの協力が得られることになる。

 現地調査などを踏まえUCCはロタ市に対して、ロタ島はコーヒー栽培にとって最適な環境であることや、原生林のコーヒー生態系がエコツーリズムなどの環境資源になりうることなどを提案。

 栽培に関しては、シェード農法の導入支援や環境負荷の少ない加工技術などサステナビリティに配慮した様々な営農支援を継続している。

 島民主体のプロジェクトであることから「UCCハワイコナコーヒー直営農園」への島民の受け入れも行い、収穫から乾燥、焙煎の一連の工程を伝達。

 6次産業化を目指し、ロタ島で収穫された豆は一部UCCでも販売される予定だが、地産地消を基本とする。島内で精製・焙煎・製品化し、ロタ島を含むグアム島やサイパン島のマリアナ諸島全域での販売を目指す。

 大西代表は「インターネットでは販売しない。ロタ島で、エコツアーを楽しんでもらい、お土産にコーヒーを買っていただく。お土産が売れ出すと宣伝にもなり、島民もやる気が出てくる」と期待を寄せる。

左からKFCトライアスロンクラブの大西喜代一代表、UCCの中平尚己農事調査室室長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
左からKFCトライアスロンクラブの大西喜代一代表、UCCの中平尚己農事調査室室長

 ブランド名は「ロタブルーコーヒー」。ロタ島周辺の海域が独特の蛍光色のブルーで美しく輝く「ロタブルー」から命名された。

 品種はDNA鑑定を経てアラビカのティピカ種と判明。「原種に近い品種で、物凄く繊細でフルーティーで甘みがある」(中平室長)と胸を張る。

 ロタ島で自生している経緯については、1930年頃、ハワイ・コナから日本人によって栽培するために持ち込まれたものの、第二次世界大戦末期の1944年に栽培放棄され、70年以上森の中で生き延びてきたとの説が有力になっている。

 400本あるコーヒーの苗木は、森に自生するコーヒーノキになる実が供給源になっている。

 栽培環境と品質については「赤道から一定程度離れているため標高500mで十分冷涼な地域になる。昼夜の寒暖差はさほどないが、特に森林エリアはかなり涼しく特徴的な味になる。収穫が3ヵ月くらい遅く、その分熟成され、高付加価値の最終製品になる」と説明する。

ロタ島産のコーヒー豆。品種はDNA鑑定を経てアラビカのティピカ種と判明 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
ロタ島産のコーヒー豆。品種はDNA鑑定を経てアラビカのティピカ種と判明

 課題としては、獣害や台風への対策、ロタ島民へのコーヒー栽培・加工の定着化が挙げられる。400本ある苗木の半分は鹿に食べられ新たに植えられたものとなる。

 従事者はロタ市が主導して増やしていく考え。「現在は市の職員が畑を整備し、今後、農協のようなものをつくり、公務員以外の方々も研修を経て雇用される予定と聞いている」という。

*参考文献:「ROTA BLUE COFFEE トライアスロンクラブが作った南の島のコーヒー農園」(大西喜代一著)