昨年のキリンビールはコロナ禍に苦しむも手応えを感じた一年だった。今年の戦略には「強固なブランド体系の構築」と「課題解決による新たな成長エンジン育成」を掲げコロナ禍に立ち向かう。
昨年は「絞りと集中のブランド投資、コロナ禍と酒税改正がもたらした環境変化に合わせることで、キリンブランドの市場におけるポジションを上げることができたと感じる」(布施孝之社長)との言葉通り、ビール類計は市場を大きく上回った。またRTD、ノンアルコールも、それぞれ市場を上回った。洋酒は市場並みだった。
その要因として布施社長は「17年から継続している絞りと集中のブランド戦略と、コロナ禍による消費者の意識・行動の変化が合致したことが大きい」と分析。「厳しい状況だったが、大きな手応えを感じた年」と話す。
中長期的には「CSV(消費者や社会と共有できる価値の創造)マインド」と「正しい戦略」を掛け合わせることで「お客様から最も愛される会社」を目指すことを重視。「特に目新しい戦略はないが、目先の数字ではなく5年後10年後を見据えてブランドを育成する。苦しいが、それが正しい戦略だ」という。
今年の戦略として掲げる「強固なブランド体系の構築」の背景には酒税改正がある。昨年10月に酒税改正の第1弾が実施され、ビールは減税、新ジャンル(第3のビール)は増税され、ビールにとっては再成長の機会ととらえるが、新ジャンルも底堅く推移するとみる。
26年にはビール類酒税が一本化されるが、その過程で弱いブランドは淘汰されるとみて、その後も生き残るブランドの育成を図り、今から投資を行っていく。
戦略の中心はビール「一番搾り」だ。酒税改正後の3か月間で缶は前年比約5割増と伸長。10月発売の「同 糖質ゼロ」が上乗せになったことも奏功した。
今年は「一番搾り」の中味を2年ぶりに刷新(2月製造品から順次切り替え)。「同 糖質ゼロ」とセットで施策を実施する。広告も大規模に展開、「一番搾り」は4~6月で1万2千GRP、「同 糖質ゼロ」は上期6千GRPのCMを投入する。
昨年も新ジャンル「本麒麟」は好調。新ジャンルに逆風となった酒税改正後も市場を大きく上回った。今年は中味、パッケージともに刷新(1月製造分から順次切り替え)。2~4月に約9千GRPのCMや、デジタル広告を投入する。また大規模な飲用体験施策も準備する。
新ジャンル「のどごし〈生〉」は商品、広告、店頭で訴求。発泡酒「淡麗グリーンラベル」も店頭キャンペーンの実施や広告などでブランドイメージを高める。昨年4月発売の「グリーンズフリー」も2月に刷新する。
「課題解決による新たな成長エンジン育成」では、進む2極化に対応してクラフトビールなどの高付加価値品に注力。また、より充実した自宅での生活といったニーズに応える家庭向けビールサーバー「ホームタップ」を定額制で展開し、基盤を整える。
比較的小規模な飲食店向けのビジネスモデルとして昨年に6県でテスト展開した「タッピー」の全国展開も目指す。3ℓのPETボトルを使うことで交換や洗浄の手間を低減でき、積載効率が高いため物流費や炭酸ガス削減にも貢献できる。
さらに社会課題と事業の成長を両立させるというCSV経営にも注力。「CSVマインドが社員から滲み出るようにしたい」(布施社長)と語っている。