近年の世界的な気候変動は、多くの農作物生産に影響を及ぼしている。テロワール(自然環境要因)に品質が左右されるワイン用ブドウも例外ではない。日本のワインメーカーも対策に本腰を入れ始めている。
気候変動による過度の干ばつと熱波の頻発で、伝統的なワイン産地の約90%が今世紀末までに消滅するおそれがある――。そんな予測を示す研究結果が今年3月、フランスの農学研究所ボルドー・サイエンス・アグロなどによって発表された。
影響は日本ワインにも表れつつある。年々強まる夏場の猛暑から、より冷涼な産地での生産に注目が集まるようになってきた。
欧州系のブドウ品種を中心とした日本ワインに取り組んできたサントリーでは、近年の気候変動も背景に、日本固有品種「甲州」に改めて力を入れる。
同社がワイナリーを構える「登美の丘」を中心に山梨県での生産に取り組んできた「甲州」で、新たな試みに挑戦。より冷涼な長野県・立科町産ブドウを100%使用した「立科町 甲州 冷涼地育ち2023」を9月に発売した。
「産地の積算温度は直近3年間で毎年100℃くらいずつ上がっていて、急激に温暖化が進んでいる。山梨と長野では、できるワインがだいぶ変わってきている」と話すのは、同社ワイン本部シニアスペシャリストの柳原亮氏。「山梨以外で『甲州』を作るとどうなるのか知りたかった」と狙いを語る。
山梨では糖度が上がるにつれて酸度が落ちる一方、長野では酸度を保ったまま熟す傾向が強いといい、冷涼なテロワールを生かすことで山梨とは異なる「甲州」の魅力を追求する。
日本ワインブランド「シャトー・メルシャン」を展開するメルシャンでは、温暖化への対策の一つとして標高の高いエリアに圃場を新規開拓している。
椀子ヴィンヤード(長野県上田市)は標高650m。現在8品種を栽培する。さらに標高800mの同県・片丘ヴィンヤードなどで新規開拓した圃場でも、高品質なワイン造りで成果を得ている。
他方で標高が低い鴨居寺ヴィンヤード(山梨市)では、20年から品種をシラーに一本化。適地・適品種を見極め実行できたことで、高品質なワインの生産本数拡大につながった。
「ワイン造りは農業なので、気候変動は重要な課題。当社のパートナーワイナリーであるコンチャ・イ・トロ社(チリ)は、温室効果ガス排出を40年までにゼロにすることを目指し、自然林による炭素回収などの取り組みを行うなど、持続可能なワイン造りに取り組んでいる」(同社)。
さらに、冷涼な北海道の産地にも熱視線が注がれる。日本ワイン「グランポレール」を展開するサッポロビールは、余市町と北斗市の道内2拠点でブドウ生産を行う。
温暖化の影響から、北海道でも良質なワイン用ブドウが採れるようになってきたという。昨年に初ヴィンテージをリリースした北斗ヴィンヤード(北海道)からは、「日本ワインコンクール2024」で金賞を受賞したセカンドヴィンテージ「北斗シャルドネ2023」を9月に発売。産地としてのアドバンテージが強まると期待される北海道産ワインを強みに、日本ワインを盛り上げる。
冒頭の研究では、既存産地が消滅の危機を迎える予測の一方で、以前はブドウ栽培に適さなかった地域に新しいワイン産地が出現する可能性も指摘されている。ワインの未来地図が大きく塗り替わろうとしている。
(11月8日付本紙に「ワイン特集」)