炊飯器メーカーでは、開発過程で炊飯と試食を繰り返し、おいしいごはんの炊きあがりを追求する。だが、どうしても食べきれない分はどうなるのだろうか。
業界大手の象印マホービンは従来、試験炊飯で余ったごはんをすべて堆肥化していた。だが、社内では「もったいない」として課題になっていたという。そこで一昨年には、その一部から精製したエタノールを使った除菌ウェットティッシュを商品化。企業のノベルティ品向けなどに販売している。
今回、この取り組みがさらに前進。余ったごはんを原料の一部としてアップサイクルしたクラフトビールを商品化した。その名も「ハレと穂」。「一滴への想い、一粒への想い」をコンセプトに、ごはんを最後まで大切にしたいとの思いから生まれたサステナブルなビールだ。ハレの日の乾杯シーンで楽しんでもらうため、ごはんから作られたビールであることをネーミングで表現している。
フードロス削減に取り組むシンガポール発のスタートアップ企業クラストジャパンの提案を受け、クラフトビール醸造で評価の高い伊勢角屋麦酒(三重県)とのコラボにより開発。原料である大麦麦芽の一部をごはんに置き換え、白ブドウ果汁も加えてすっきりフルーティな味わいに仕上げている。
製造元の伊勢角屋麦酒で開発を担当した山宮拓馬氏は「コメでビールを造るには専用の設備が必要なことなどから、これまでほとんど経験がなかった。今回の話も最初は『難しい…やりたくない』と思ったが、シミュレーションを重ねてプログラムを組み、仕込みに至ることができた」と苦労を語った。
象印マホービンの新事業開発室・栗栖美和氏によれば、試験炊飯で炊くごはんは年間30tほど。
「今回の製品でウェットティッシュの10倍くらいの量を使えるようになったが、それでもアップサイクルに使えているのはまだ全体の数%程度」といい、ユーザーの反応を見ながら今後の取り組みを検討したい考えだ。
「ハレと穂」(330㎖、希望小売価格660円)は6月21日発売。同社が運営するレストラン「象印食堂」でよく合うメニューとともに提供するほか、伊勢角屋オンラインストア、首都圏のイオンリカーの店舗などでも販売している。