JR 東日本クロスステーションウォータービジネスカンパニーは、2022年春に稼働開始した同社初の飲料工場「JR東日本クロスステーション みなかみ工場」(群馬県利根郡みなかみ町)が軌道に乗ったことで、上越新幹線の大清水(だいしみず)トンネルから湧き出る谷川連峰の天然水を使った商品の製造受託(OEM)を売り込んでいる。
9月7日、取材に応じた商品部製造ユニットの高田明子副課長(ユニットリーダー)は「2024年4月に初めてOEMを受託して26年4-7月生産数量は前年同期比約1.5倍で推移している。OEMをさらに拡大させて工場の稼働時間を増やしていきたい」と語る。

谷川連峰の天然水は、群馬県と新潟県をまたがる自然豊かな保護区である上信越高原国立公園内に降り注ぐ雪や雨が、何層もの地層による天然ろ過を経て湧き出たもの。硬度25度の軟水で、まろやかでスッキリした味わいが特徴となっている。
天然水は大清水トンネル内の出水場所から線路脇に設置された約16キロの専用パイプラインを通り、みなかみ工場敷地内の貯水タンクへとダイレクトに接続されている。専用パイプラインへの湧水量は毎分約33トン。
貯水タンクから毎時2万L(家庭用の浴槽100杯分に相当)の湧水が安定して工場へ流れ込み、ろ過・加熱殺菌を経てペットボトル(PET)に充填される。
天然水は、地中でミネラルが溶解した地下水を原水とし、沈殿・ろ過・加熱殺菌以外の物理的・化学的処理は行っていないナチュラルミネラルウォーター規格。2025年10月には食品安全マネジメントシステムに関する国際規格「FSSC22000」を取得し、食品安全に影響を及ぼす事項については常に検討し対策を行いながら製造に取り組んでいる。

みなかみ工場ではPETを成型し、PETの元となるプリフォームを加熱し、金型にセットし空気を吹き込んでPETへと成形。洗浄・殺菌されたPETに天然水を充填している。
充填能力は300BPM(1分間に300本)。現在は平日のみ稼働し稼働時間は5時から23時まで。1日約25万本の生産を可能としている。
ここで製造される市販商品は、主にJR東日本のエキナカにあるアキュアの自販機で売られる落ちないキャップが特徴の「From AQUA 谷川連峰の天然水」(以下、フロムアクア)。容量は550mlと300mlを取り揃える。
落ちないキャップは、キャップ下部のリングと呼ばれる部分とキャップをバンドでつなぐことでボトルからキャップが離れず、エキナカでの移動中などにキャップを落とす心配がない仕組みになっている。
OME拡大へ3つの勝ち筋

工場の稼働が安定化してきた現在、OEMを拡大し稼働時間延長によるスケールメリットの創出に取り組んでいる。
OEMは、1回の製造ロット(最低製造数量)2000ケース(1ケース24本入)から対応している。
他社との差別化ポイントとしては、工場が立地する群馬県みなかみ町に根ざしている点や大清水トンネル掘削工事中に湧出した誕生物語、落ちないキャップの主に3つが挙げられる。
「谷川連峰の地下深くから湧き出た天然水を使用していることから、群馬県の企業や群馬県に故郷がある方を中心に、群馬県のお取り組みに賛同させていただきながら群馬のお水の良さをアピールしている。群馬県の方は群馬愛が物凄く強く、みなかみ町のふるさと納税返礼品として『フロムアクア』のご注文をいただいている」と述べる。

地域活動としては、みなかみ町の振興や谷川連峰の環境整備に協力。
地域振興の取り組みでは、群馬県みなかみ町をホームタウンとした3人制プロバスケットボールチーム「MINAKAMI TOWN.EXE」に協賛しているほか様々な地域活動を支援。2026年4月に発足した「アーバンデザインセンター(UDC)みなかみ」にも協力して、みなかみ市へのさらなる貢献を模索している。
環境整備では、生物多様性を守るため、外来種を取り除き在来種の「ニッコウキスゲ」や「ヤナギラン」へと植え替える谷川岳エコツーリズム推進協議会の活動にも参加している。
谷川連峰は、谷川岳一ノ倉沢の大岩壁をはじめとする険しい山々と季節ごとに様々な表情を見せる気候のもと多様な動植物が生存。ここでしか見られない「ホソバヒナウスユキソウ」や広大なブナの原生林をはじめ1500種類以上もの植物が確認されているほか、イヌワシやクマタカなどの植物連鎖の頂点に立つ動物も見られることから生物多様性がしっかりと守られている。
過去には谷川岳トレッキングコースの道標整備や人道橋や案内板の整備を通じた観光地としての魅力向上も図っている。
ストーリーに勝算 「From AQUA」誕生物語

誕生物語のアピールについては、みなかみ工場のホームページを公開して一歩踏み出した。
「いろいろな採水地がある中で、何が訴求ポイントかというと、トンネルを掘っていたときに出会ったというストーリーと落ちないキャップにあると考える。今後、外部のサイトに告知するなど、このあたりを上手く伝えていくことを考えている」という。
谷川連峰の天然水は、1978年、上越新幹線大清水トンネル掘削工事中にトンネルの中から湧出。毎分33tの大規模な出水で、当初は工事作業員を悩ませる“憎い水”であったが、トンネルが完成するとその水は穏やかに流れる透明で清らかな水に一転。
その後しばらくは冬の間の融雪用として使われていたが、作業員が喉の渇きを潤すために口に含んだところ、まろやかでおいしいと評判になり、水質検査のデータを揃えるなどして水の商品化に向けて動き出した。
しかし当時の国鉄は、水利権の帰属や湧水の採水・運搬方法、飲料業界の商流・物流について何ひとつわからない状態で、高崎鉄道管理局内に「水プロジェクトチーム」を発足させ手探りで始動。
取水源である谷川岳から上毛高原駅高架下にある源水貯蓄タンク(取水基地)までの約16キロの専用パイプラインを職員全員で設置したほか、20人の鉄道員らが商品開発から製造委託、広告宣伝など全てゼロから作り上げ、1984 年11 月15 日、「大清水(おおしみず)」の販売を開始した。

販売動向は、名水ブームも手伝い「西の六甲、東の大清水」といわれるほどまでに成長。87年の国鉄からJRへ民営化後には、「大清水」はJR高崎支社子会社「高崎商事」により継続販売された。
その後、JR東日本グループ戦略として2006年8月1日に設立されたJR東日本ウォータービジネスが高崎商事の大清水事業を譲受。ブランド名を現在の「フロムアクア」へと変更し2007年7月3日に発売開始して現在に至る。
製造面では、みなかみ工場が稼働する2022年春までは、上毛高原駅高架下の取水基地からトラックで天然水を外部の協力工場まで運搬していた。
賞味期限延長に挑む

OEM拡大と稼働率アップに向けて、新規設備の導入などについて工場と本社の橋渡し役を意識するのが商品部製造ユニット兼販売ユニットの鈴木和良氏。
「例えば長期的に見て生産効率や作業性に課題のある設備については、工場と連携をとりながら、更新・改造の必要性を経営陣へ働きかけ、実現につなげている。安全な商品をより効率的に作るために改善の後押しをしていきたい」と語る。
7月から現職の商品部製造ユニットの南里紘太朗氏も「安心安全なものを今後も販売し続ける。とてもまろやかでおいしい歴史のある水を使わせていただいていることから、エキナカに留まらずエキソトにも広げていきたい」と力を込める。
販路拡大について「まだまだ伸び代がある」と自信をのぞかせるのは、商品部みなかみ工場の大塚翔太氏。
「谷川連峰は冬、物凄い量の降雪があり本当に人間が立ち入ることが難しい自然豊かな環境が残され、その恩恵を国鉄時代から40年以上いただき商品として販売している。そのような自然の恵みに加えて鉄道の歴史も詰まった他に負けない水であることをアピールしていきたい」と意欲を示す。

これまでに病院・学校などから6件のOEMを受注。
OEMの受注にあたり、キャップは落ちないキャップと通常のキャップの2種類を用意。ラベルデザインはカスタマイズでき、来客や推し活を促すイベントなどにも対応可能だ。
今後は、OEM拡大に向け、要望の多い賞味期限延長など、商品改善の検討を進めていく。
ハード面では、上毛高原駅高架下の取水基地への既設パイプラインを新たに工場へ追加接続することで取水体制を強化した。
工場は守衛を含め計23人が二交代制で勤務。午後2時に交代する。最大800パレットが保管できる自動倉庫を併設し、自動倉庫から群馬県沼田市にある外部倉庫に1日8~10便輸送している。
工場概要は、敷地面積9262㎡、建築面積2855㎡。2階建てで延床面積は4360㎡。
