清酒「獺祭」醸造元の旭酒造は、新たなファン層の開拓を目指し、2024年冬から年間1000回のイベント開催に挑戦する。
本紙のインタビューに桜井一宏社長は「北海道から沖縄まで全国津々浦々で実施する。まずはたくさんの方に『獺祭』を飲んで楽しんでいただきたい。『獺祭』に新しく接する間口を酒販店や飲食店の方々と改めて深掘りしていきたい」などと語った。
「獺祭」のイベントは、東京や大阪のホテルで行う「獺祭の会」(参加者300~400人)をはじめ、酒販店や飲食店での試飲販売会など多岐にわたり、現状は年間150~200回実施している。
それを今シーズンから年間1000回(海外含む)まで一気に増やす。営業部門のメンバーを中心に酒販店担当、飲食店担当、ホテル担当らが手分けして企画し、イベントの実施にあたっては製造部門の蔵人らも参加する。
背景について、桜井社長は「獺祭は知っているけど『飲んだことがない』『しばらく飲んでいない』という方が多くなっている。こうした状況を変えたい」とし、「10数年前から国内で多くの方に獺祭が知られるようになったころ、たくさんの酒販店や飲食店の方々が支えてくれた。しかし急速に成長したがゆえに、お客様に知ってもらう間口が追いつかず、われわれから獺祭のおいしさや価値を伝える取り組みはその頃と変わっていない」と説明。
「今回イベントを数多く実施する中で酒販店や飲食店の方とも密にコミュニケーションを取っていきたい。地道な活動かもしれないが、まずは獺祭を売るというよりも知っていただくこと。その先に新しいファンや飲み手の姿も見えてくるのではないか」と期待する。
米国「獺祭ブルー」 現地で好事例も
24年9月期の売上高は195億円、前年比12%増、数量は約6411㎘(約3万5500石)。うち、輸出売上は56億円、10%増、数量は約2315㎘(約1万2800石)。
一方、ニューヨーク郊外の米国酒蔵で製造する「DASSAI BLUE(獺祭ブルー)」が発売から1年余りを経過した。
ラインアップは日本同様フラッグシップに位置付ける磨き二割三分の「タイプ23」、米国アーカンソー州産の山田錦100%で仕込む「タイプ35」、比較的手に取りやすい価格帯の「タイプ50」を中心に展開。
製造は日本から蔵長の経験者など醸造・瓶詰めに精通した3人と現地ワーカー7人で行っており、日米双方の蔵がオンラインでコミュニケーションを取って密な情報交換やデータ検証を実践。酒質は着実に向上しつつある。販売は当初と違いディストリビューターも使うようになったが、それに加えて飲食店やリカーストアとの直接取引を継続。
現状について、桜井社長は「米国で『獺祭ブルー』はまだまだ一般の方に認知されていない。ニューヨークやロサンゼルスなどの都市部を中心に、DASSAI USAの営業スタッフが飲食店など一軒一軒を地道に開拓するべく説明して回っている」。これまで手薄だった洋食店ルートへの導入を目指すとともに、日本の「獺祭」を取り扱っている和食店からも引き合いがあれば応えている。
桜井社長は「洋食店ルートへの挑戦は黎明期」とした上で、現地レストランのオーナーが「獺祭ブルー」への理解を深め、短期間でお店の看板商品に育て上げた好事例を紹介。「今でこそ日本国内の高級和食店や寿司店でワインが提供されているが、それはかつて当たり前だったわけではない。簡単な道のりではないが、われわれもアメリカで新たな市場を切り拓いていきたい」と展望する。