防災食特集〈中〉 関東大震災から100年 本紙主催「防災食座談会」カインズ 日清食品ホールディングス 日本気象協会

常設型の防災食売場を展開 登山などアウトドアとの連動も
カインズ 日用雑貨SBU加工食品部部長兼CAINZ IZM防災テーマリーダー 吉江孝仁氏

当社は28都道府県、北海道から九州、沖縄まで230店舗以上のホームセンターを展開しています。創業以来、「商業を通じて社会の発展に貢献する」ことを志に、それぞれの地域のくらしに寄り添いながら事業活動を行っています。

2021年10月には、こうした創業以来の志をさらに発展させ、それぞれの地域における困りごとや関心、ニーズにていねいに耳を傾け、「人々が自立し、ともに楽しみ、助け合える、一人ひとりが主役になれる『まち』(≒地域社会)を実現する」ことを目指す、「くみまち構想」を策定しました。店舗は有事の際、地域のライフラインとしての役割を担っており、例えば水や食料、ガスコンロなどの提供などを通して、皆さまが1日も早く安心なくらしを取り戻せるように努めています。

また、店舗を中心に地域との取り組みを進めていて、店舗周辺の地域やステークホルダーと共創していく取り組みを行っています。具体的には、地域やくらしが抱える様々な課題を「くみまち15の共創価値領域」として分類し、それらを地域のステークホルダーと共に創る「3つの共創価値」で整理しました。一つ目は環境や防災・災害対応などまちのライフラインとして「安心な」生活の土台を築く領域、二つ目は地域産業の振興や教育・子育てなど地域需要を創造し、くらしの課題を解決することで日常を「楽しく」する領域、そして三つ目は地域にくらす一人ひとりの方が「自分のやりたいことを見つけ、できる」ようになり、自分らしいくらしを実現できるようになる領域です。

また、くみまちの取り組みの一つに「くみまち学校」があります。これは学校では教えてくれない「生きる力」をDIYを通じて学ぶ場で、企業や教育機関、自治体を共創パートナーとし、防災や環境など、地域のくらしの課題を解決する機会を提供。教育プログラムには早稲田大学と連携し、子どもたちを中心とした体験教室を開いています。

防災食の具体的な取り組みですが、昨年8月から10月まで「自分らしい防災をつくろう」をテーマに防災プロモーションを展開しました。売場では「食」と「収納」、リーフレットでは「防災の意識化&DIY」、媒体では「○○しよう!DIY」を掲げ、防災の日常化を推進しました。

今までは防災用品が中心でしたが、昨年からは食品を中心に展開し、先ほど尾西食品さんのお話にもあったように、おにぎりのようなものを中心に展開しました。今年も8月中旬から店頭での展開を進めており、味の素さんのお話があったような収納とは多少異なりますが、収納とリンクしたような売場を作りました。

非常食となると、どうしても後方に片づけてしまってしまうケースが多いので、ホームセンターである当社としては非常食であり、日常食のような部分を目指しています。

例えばキッチンに置いてもおかしくないような収納を考えています。あとは食品サイズにぴったり合った収納、しかもすぐに手に取れるような収納も重要な要素です。また防災食には、キャンプや登山などアウトドアとの連動という側面もあるため、日常と非常時の備えを習慣化ができるような形を考えています。昨年、一部店舗において日清食品さんの完全栄養食「完全メシ」を展開しましたが、日常と非日常という観点から考えると非常食売場でも展開できるのかなと思った次第です。

また、店頭での防災プロモーションとして小学生を対象とした防災時の備品ストックに関するクイズラリーや、3日分の避難に必要な水、食料などの備品の重さ体験会を行い、子どもたちにも防災やローリングストックの大切さを学んでもらう場を提供しました。そして今年もイベントなどを絡めて、非常食や防災に対する認知を高めていこうと思っています。

常設の防災食売場では、そよら湘南茅ヶ崎店で防災食、防災用品を一括りにした売場にしました。基本的に防災食にはレトルト食品やフリーズドライ食品を中心に並べ、プラス非常食という形で展開しました。やはり非常食となると、お客さんがあまり興味を示していただけないのが一般的で、レトルト商品なら興味をもっていただけるようです。レジャー用品と隣接した売場でも、やはり中心はカレーなどレトルト食品です。日清食品さんの「カレーメシ」や乾燥野菜も販売し、楽しく、便利に食べながら、いざというときは非常食になるような提案をしています。また、非常時の持ち出しも考え、防災食や防災用品をプラスチックボックスにストックし、持ち出し時の考え方や見え方なども実証しています。

また、朝霞店と朝霞市とがコラボし、防災イベント(朝霞市防災フェア)も開催しました。警察や消防、自衛隊の協力も仰ぎ、駐車場に消防車や警察車などを入れたため非常に賑わったイベントになりました。

さらに群馬大学の金井教授監修の防災ワークショップの提案や、実際に目で見てもらって知ってもらうコーナーを作りました。

平時の取り組みとして、会員およびカインズメンバーに防災に対するアンケートをとりました(回答数2千301人)。「今後、家庭で実施しなくてはいけないと思う防災対策を選んでください」という質問に対し、「防災食、非常食の準備」が39・9%とトップとなり、「通常の食料品(カップ麺、レトルト食品など)の非常用の準備」(28・2%)も6番目に入りました。

最後に生産者と地域の食べる人をつなぐ目的で、店舗内の産直コーナーで「くみまちマルシェ」を展開。地域農業の未来に貢献できることを目指しフードロスの削減や消費者需要の創出に注力しています。今年5月現在では埼玉県を中心に朝霞店、新座店で展開しており、今後は全国各地のカインズで展開していこうと思います。

市川裕也氏(日清食品ホールディングス) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
市川裕也氏(日清食品ホールディングス)

“もしもの時”にも、温かい食事を 「カップヌードル ローリングストック」セット
日清食品ホールディングス 広報部係長 市川裕也氏

日清食品の「チキンラーメン」は、世界初のインスタントラーメンであり1958年8月25日に誕生しました。正に65年前の今日になります。そして世界初のカップ麺「カップヌードル」は1971年に誕生。この2つを発明したのが日清食品の創業者である安藤百福です。「チキンラーメン」を開発するにあたりヒントとなったのが、戦後の闇市で見た一杯のラーメンを求めて並ぶ人たちの姿。その先に何があったかというと皆が温かいラーメンをうれしそうに食べている姿でした。お湯を注ぐだけで食べられるラーメンがあったらどんなに喜ばれるだろうかという想いが「チキンラーメン」の開発へとつながりました。

その開発にあたって安藤が掲げたのが5原則になります。それは「おいしい」「衛生的で安全」「簡便調理」「長期保存」「手頃な価格」の5つです。この中で注目していただきたいのは、「簡便調理」と「長期保存」というところになります。インスタントラーメンは、防災食として開発されたわけではありませんが、防災食として必要な「簡便調理」と「長期保存」という要素をもともと持っていたことになります。「チキンラーメン」は、どうしても調理するときに丼や鍋などが必要になりますが、さらに進化させたのが「カップヌードル」です。「カップヌードル」のカップは、物流・販売時には包装材になるし、調理するときにはお湯を注げる調理器になります。さらに食べるときには食器になるという3つの機能を兼ね備えています。これさえあれば丼も鍋も必要ないわけで、防災食としても最適な商品だと考えています。また創業者・安藤百福の想いが込められていると思います。

創業者の安藤は、4つの言葉(「食足世平」「美健賢食」「食創為世」「食為聖職」)を掲げました。今で言う創業者精神、MISSIONということになります。その中で特に「防災食」につながる言葉は「食足世平」になるかもしれません。これは「食が足りてこそ世の中が平和になる」という意味です。「食創為世」は「世の中の為に食を創造する」、「食為聖職」は「食の仕事は聖職である」、「美健賢食」は「美しく健康な体は賢い食生活から」という意味であり、その想いを受け継いで、われわれ社員は普段から仕事をしています。

国内の災害時には、給湯機能がついたキッチンカーにインスタントラーメンを載せ、被災された方を訪ね、お湯を注いで温かいインスタントラーメンを提供しています。インスタントラーメンは日本だけでなく世界中で食べられています。海外で、災害が起きた際にも救援物資としてインスタントラーメンを提供しています。提供した際にいつも言われるのは、温かい食事を食べられることができてホッとするということです。味の素さんもお話しされたように、非常時でも普段から食べ慣れたものが食べられることはありがたいことだと言われています。これは旅行に出かけ、家に帰ってきた時の安心感と似た感覚ではないでしょうか? そして温かいものを食べることで体だけではなく、心まで温まるということが、インスタントラーメンが提供できる価値だと思っています。また、商品を通して消費者に防災意識を高めてもらうことも大事だと思っており、その役目を果たしているのが「カップヌードル ローリングストック」セットです。

多めに買ってローリングストックしておいても、いつのまにか賞味期限が切れてしまうケースもよくあると思います。インスタントラーメンの袋麺の賞味期限は8か月、カップ麺は6か月ですが、賞味期限が切れるまでには、まだあると思っていても、結局、期限切れになるケースも多々あるようです。そういった方にもお勧めなのが「カップヌードル ローリングストック」セットです。オリジナルBOXに「カップヌードル」をはじめ、カセットコンロ、カセットボンベ、水、手鍋、フォーク、ライト、軍手などがセットになっており、電気やガス、水道が止まっても温かい食事を食べられるようになっています。一度申し込むと好みのカップ麺、カップライス9食(備蓄3日分)が3か月ごとに自動的に届くようになっており、賞味期限を気にしたり自身で買い足す必要がありません。商品は防災安全協会より防災製品等推奨品に認定されました。余談ですが、このボックスはリュックで背負えるようになっており、椅子として座ることもできます。

当社は、社会貢献活動を通じたお客様の防災意識の啓発も行っています。創業者・安藤の志を受け継ぎ、2058年までの50年間に合計100の「未来のためにできること」を実行していく「百福士(ひゃくふくし)」プロジェクトを行っており、その第25弾が「もしものときに、いつものおいしさを 災害備蓄・ローリングストッカーズ」という活動です。これはローリングストックの認知向上とお客様の実践を目的にした活動で、社員がイベントやスーパーの店頭で啓発活動を行いました。内容としては、ローリングストックを実践するコツや防災食としてのインスタントラーメンの有用性をまとめたオリジナルリーフレット配布や、楽しみながら学べるクイズラリーの実施などです。オリジナルメンバーズカードを作り、お客様自身がローリングストッカーズとしてローリングストックを率先して行っていってもらえるようにしました。

防災には知識だけではなく、実践力も大事だということで行ったのが「備えて安心!チキンラーメンサバイバル術プロジェクト」です。これは災害時に備え、自活力のある子どもたちの育成をサポートするプロジェクトです。災害時に電気もガスも水道も使用できない状況を想定したサバイバル体験では、子どもたちが自ら火打石や虫めがねで火をおこし、携帯用浄水器で水を浄化し、最終的にはその火と水を使って「チキンラーメン」を作って食べました。実際に体験し、楽しんでもらいながら、インスタントラーメンが持つ価値、もしもの時でも温かい食事がとれる大切さを子どもたちに感じてもらいました。こうした活動を含めて日清食品グループらしく社会に貢献していくことが使命だと思っています。

峠 茉里奈氏(日本気象協会) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
峠 茉里奈氏(日本気象協会)

気象からみた商品需要予測 流通、食品企業、自治体など導入
日本気象協会 事業本部 社会・防災事業部 気象デジタルサービス課データ解析グループ 峠 茉里奈氏

私は社会・防災事業部気象デジタルサービス課に勤務しています。季節商材を取り扱う食品メーカーさまや日用品メーカーさまなどの製造業のお客様を中心に、アナリストとしてPOSデータなどを拝見し、気象情報と連動した商品の需要予測モデルの構築やコンサルティングを担当しており、気象予報士の資格を生かして、気象状況の変化を分かりやすくお客様にお伝えし、情報を事業運営に役立てていただくことを目指しています。いち消費者としても物を購入し、消費する立場でもあり、データ解析はしているものの、どうしても予測のズレも生じてしまいます。そうした傾向も含めてデータをお渡しするだけではなくて、説明も含めてコンサルティングとして説明させていただいております。

日本気象協会は1950年に気象庁の外郭団体として設立。現在でも気象庁と間違われることもありますが、2009年に一般財団法人となった民間の気象会社であり、皆さまと同じく一般の民間会社としてビジネスを行っています。事業の柱は大きく3つあります。一番よく知られているのはウェブやアプリで展開する天気予報専門メディア「tenki.jp」や気象予報士キャスターのテレビ出演などBtoCの事業ですが、実は主力事業はBtoBである防災事業やエネルギー事業です。私が所属している社会・防災事業部も、防災系のBtoBのお客様がメーンであり、例えば地方自治体やインフラ企業、食品メーカー、小売業など特定企業に向け、一般には出回らない気象データを配信したりコンサル事業を行っています。3つ目のエネルギー関連事業は、風力発電候補地の環境調査、解析、電力会社さまへの電力需要の予測提供などです。今回はBtoB事業の一つ「商品需要予測コンサルティング」についてと、台風時の商品の動きについて「tenki.jp知る防災」からローリングストックについて紹介します。

「商品需要予測コンサルティング」は、経済産業省の「需要予測の精度向上・共有化による省エネ物流プロジェクト」の一環として2014年に開始したものです。当初の目的は食品廃棄物をなくすことでしたが、現在はサプライチェーン全体の最適化や、気象情報を効果的に活用した営業活動など、様々な部門を横断的に支援しています。公表している食品メーカーとの取り組み例では、Mizkanさまとは、冷やし中華つゆの在庫削減のための中長期需要予測。ネスレ日本さまとは、意思決定のための気象データ提供。森永製菓さまとは、在庫適正化のための「inゼリー」と「チョコモナカジャンボ」の出荷量予測データ提供において支援させていただいています。商品需要予測を導入している多くの商品は、一般的に毎日食卓に並ぶものや嗜好品などで、季節商材など気象の影響を受けやすいものです。これらの商品が、日々の暑い/寒いなど気象による需要変化に振り回されることなく、安定した需給コントロールができるよう、気象とデータの面から、コンサルティングとして製造業の皆さまをサポートしています。しかし、防災という観点からは、いざ自然災害となった際に混乱の中で特別な需要に対応するのは難しい面もあります。ただ、気象に関連した災害である台風や梅雨時期の大雨、線状降水帯などはある程度事前に予測ができます。

台風時の商品の動きについてですが、台風は毎年必ず発生し、日本列島への上陸数をみると、2000年以降、0回の年もあるものの、平均で年3回は上陸しています。今年は台風6号が接近、つい先日は台風7号が上陸し、今後も海面水温や海洋の影響で、統計的には大型台風が接近する可能性が高い夏となっています。気象は現象の規模によって予測のリードタイムが変わるが、台風は1、2週間前から予測できます。台風接近前後の市場の動きについて、POSデータ会社であるインテージさまのSRI+データを利用して当社で分析した結果、台風前に特定商材の販売量が急増することが分かりました。台風前に販売量が急増するものとして、ミネラルウォーター・麦茶・スポーツドリンクなどの飲料、パスタソース・カップインスタント麺・食パンなどがあり、意外なところでは嗜好品であるビールも販売量が増えることが分かっています。

ある食品メーカーさまの話では、台風接近時には交通障害の懸念から前倒しの納品を行ったり、消費者の買いだめを見込んで出荷量を増やしたりすることも可能ということです。一方、サプライチェーン全体がイレギュラーな動きを見せる中で、卸さま・小売店さまを含めた情報共有がうまくいかずに、台風通過後にも不自然な発注が残ったり、先ほど紹介したような台風接近時に売上が伸びる商品の品薄が起きたりして、サプライチェーンの混乱が数日間残ることもあるようです。台風などの自然災害時には、通常でもひっ迫している物流システムがより混乱することになります。毎日の需要予測や災害への備えに向けて、サプライチェーンの皆さまに広く気象データをぜひご活用いただけるよう、今後もコンサルティングを続けていく方針です。

最後に「tenki.jp知る防災」からローリングストックについてですが、各社でも推進されている「ローリングストック」について、私どもでは気象会社という立場から「tenki.jp知る防災」のウェブサイトでコンテンツを公開して、啓発を行っています。

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