〈食の産学官連携⑧〉キノコなど天然素材の市場創出 更年期・認知症改善に期待 九州大学農学研究院

キノコは、食物繊維やβグルカン、ビタミン、ミネラルなど栄養素を豊富に含む。近年ではガン予防や血流改善、内臓脂肪抑制など様々な機能性に関して産学共同研究が進められ、科学的根拠をもとにしたサプリメント・機能性食品など製品化の動きが活発だ。この分野の第一人者・九州大学農学研究院の清水邦義准教授は、古くから和漢薬として用いられてきた「霊芝(れいし)」の多機能性に着目。抗男性ホルモン作用による排尿症状の改善効果を検証し、新市場創出を図っている。

清水准教授は「われわれ森林圏環境資源科学研究室の基本的な方針は、自然の中にある天然素材の価値を高め新市場創出を図ること。機能性表示や景品表示法など、科学的エビデンスを求める時代に応じた研究・検証を行い、機能性食品をはじめ香り、化粧品、トイレタリー、住環境(木の家・畳)など様々な分野で未利用資源を活用した製品化・事業化を目指している」と語る。

霊芝の機能性に関する共同研究は、「県内食品メーカーとの酒席で『霊芝を飲むと二日酔いにならない。おしっこも良く出る』という“噂”がきっかけになった」という。一般的に、高齢男性に多く見られる前立腺肥大症は酵素(5α―リダクターゼ)が男性ホルモンに作用して発症する。霊芝抽出物は、国内で入手可能なキノコの中で最も高い5α―リダクターゼ阻害活性を示し、臨床試験でも排尿症状の改善効果が認められた。清水准教授は「食品にまつわる噂・体験は案外正しいことが多い。われわれ科学者の醍醐味は、噂に“うんちく”(=科学的エビデンス)を与え製品化に寄与すること」と言い切る。

一方、古くから高級食材・漢方薬として珍重されてきた「ヤマブシタケ」。こちらも「更年期障害に効く」など“噂”をもとに研究を進め、興奮、イライラ、不安、動悸など女性の不定愁訴の改善に効果があることを明らかにした。ヤマブシタケに含まれる成分(へリセノン類)が脳由来神経栄養因子(BDNF)と神経成長因子(NGF)を増強。臨床試験によってアルツハイマー型認知症を緩和・抑制する効果も認められている。

キノコの機能性分析、製品化に当たっては課題も多い。「キノコの栽培方法、成長段階の違いによって含有成分が劇的に変化し、機能性・薬効も大きく異なってくる。高機能性キノコやそれを活用した機能性食品の開発のためには、包括的な成分分析で機能性を明確にすることが重要」としている。今後に関しては「地域メーカーとの連携により製品化・事業化に取り組んでいる。一方で単独での特許出願もしており、大学オリジナルのサプリメント開発にもチャレンジしたい」と意欲をのぞかせている。