3月17日、江崎グリコが開催した「with Glico ウェルネスキャンパス」で講演したスタンフォード大学医学部精神科の西野清治教授によると、脳は臓器の中でも一番活発な臓器であり、使えば使うほど脳の中に老廃物が溜まる一方、睡眠でそのような老廃物が除去できることが最近判明したという。
睡眠は心身の健康に欠くことのできない生理現象で、その主な役割としては
(1)脳と体に休息を与える
(2)記憶を整理して定着させる
(3)ホルモンバランスを調整する
(4)免疫力を上げて病気を遠ざける
(5)脳の老廃物をとる――5つが挙げられる。
睡眠中は、脳も身体も休息状態のノンレム睡眠と、脳が活動し身体だけが休息状態のレム睡眠が交互に繰り返される。
理想的な睡眠について、西野教授は「最初に深い睡眠であるノンレム睡眠が約90分間続き、その後に短いレム睡眠が出現する。これを明け方まで4、5回繰り返し、徐々にレム睡眠が長くなり起床の準備をしていく」と説明する。
自らがこの状態であるかを知る方法については「一番大事なのは、自然に目覚めたときに、眠気と疲れがとれて爽快感があること」と指摘する。
このように十分に睡眠がとれている状態であれば、たとえば免疫力については、風邪・インフルエンザの感染予防とともに感染からの回復にも役立つという。
「睡眠中に免疫が増強されて感染症を遠ざけるといったことが分かってきている。逆に睡眠時間が短いと自然免疫の観点で風邪にかかりやすく、獲得免疫の観点では予防接種しても抗体ができにくくなる」と述べる。
睡眠は外因性要因・心理的ストレス・身体疾患などに左右されやすい点にも言及。
「睡眠というのは非常に壊れやすい。部屋の温度と湿度の高低に影響を受けたり、心配事や明日のことを考えたり、日中に興奮するようなことがあってオン・オフの切り替えができなかったりすると睡眠に悪影響を与える」と語る。
睡眠が壊れやすい一番の原因としては「睡眠が不規則になること」と述べ、コロナ禍で普及しつつあるリモートワークに対しても注意を促す。
「リモートワークでは入眠時間が後ろ倒しになりがちになる。入眠時間は何時でもいいのだが、固定することが大事。リモートワークを毎日している人は特に問題ないが、週1・2回の人はその日によって入眠時間がまちまちになり睡眠の質が損なわれやすい」と指摘する。
仕事などによって睡眠・生体リズムが乱れてしまった場合の対処方法の1つとしては、昼寝が有効となる。
昼寝時間と認知症のリスクに関する外部データを引用して「昼寝しない人と比べて、30分未満の昼寝をする人の認知症発症率は6分の1か7分の1に減り、30分から1時間昼寝する人では半減する。逆に1時間以上寝てしまうと認知症のリスクは倍になり糖尿病についても同様のことがわかってきている」と説明する。
長時間昼寝をしてしまうと、睡眠から覚醒状態に切り替えできない睡眠慣性に陥りやすくパフォーマンス低下にもつながりうるという。
そのほかの対処法としては、入眠のタイミングを逸しなければ、入浴も有効となる。入浴効果は深部体温と関係している。
深部体温(内臓の温度)と眠気とパフォーマンスは相関し、深部体温が高い日中は眠気が少なくパフォーマンスは向上する。なお、深部体温が下がると手足から熱を放出するため、手足が温かくなることがポイントだという。
入浴は、入浴後に深部体温が0・5度ほど上昇したのち約90分経つと、入浴していない場合と比べて深部体温が大きく低下し「このタイミングで入眠すると寝付きが早く深い睡眠になる」。
ジョギングや散歩などの有酸素運動も同様で、入眠前だと寝付きが悪くなる一方、起床時などに行えば「睡眠効率がよくなり睡眠時間が少し短くなる。夜中に目覚めることも少なくなる」。
朝起床するリズムを体にたたき込ませるには、朝食をしっかりとることや朝日を浴びることも重要だと指摘する。
社会環境が激変する中で、西野教授が現在注視するのは子どもの睡眠。「生まれたときは16時間くらい寝ていて、そのほとんどがレム睡眠。12歳くらいにならないと大人の脳にはならず、その間にきちんとした睡眠をとらないと将来どういう影響が出てくるかは未知な部分がある」と警鐘を鳴らす。
一方、光明としては大阪堺市で取り組んでいる眠育(みんいく)を挙げる。不登校が減ったなど統計的な優位差が出始めているという。「子どもだけに“寝なさい”と命じても難しい。親も地域も巻き込んで睡眠を啓蒙していくことが大事」と呼びかける。