日本酒の海外需要は輸出が堅調に推移しているものの、インバウンド消費は減速傾向が出ている。
財務省貿易統計によると、1~6月の日本酒輸出額は前年比12%増。アメリカはインフレ等の影響で横ばいながら、中国が市中在庫の適正化で大幅に数字を戻した。一方、訪日外国人は客数こそ過去最多ペースだが消費は低迷する。日本酒の販売もトレンドは前年割れながら、空港関係者は「コロナ禍以前(19年)との比較では2倍以上をキープできている」と手応えを口にする。
獺祭、輸出はアジア好調
日本酒の輸出額は長期的なアップトレンドの最中とみられる。23年に13・5%減と14年ぶりのマイナスを喫したが、24年は6%増と着実に挽回し、25年は一昨年比でもプラスに転じてきた。
アメリカは微増。インフレ下でも底堅い需要を見せたが、今後は追加関税の影響が懸念される。取材では「消費の減退が避けられない」との見方が多い一方で、「高価格帯の商品は嗜好品なので影響は少ない」「商品ごとに値上げ幅を調整したい」との声も聞かれた。
中国は約3割増。前年上期が2割減だった反動を含むものの、2年前比でも7%増となった。プラス要因には24年途中までだぶついた市中在庫の解消が挙げられる。現地の景気低迷を背景に、「実需は回復途上」「低価格品へのシフトが顕著」と慎重な見方が多い。
獺祭の1~6月輸出額は約3割増。うち主力のアジア(中国含む)が約4割増で牽引し、欧州も二ケタ増と好調。昨年大幅に伸びた免税売上は前年並みで、輸出とのトータルは約2割増。同社は「アメリカで追加関税の影響は限定的とみているが、いずれにせよ価格は上昇する。現地産『獺祭ブルー』の販売にも注力したい」としている。
白鶴酒造の1~6月清酒輸出額は約1割増。主力の北米が前年並みをキープし、中国、台湾、カナダ、フランスが上乗せした。免税売上は高級酒を中心に約3割増。「米国をはじめ不安定な要素は多いが、日本酒の人気は堅調に感じる。情報発信を強化して良い流れを維持したい」(同社)。
宝酒造インターナショナルの1~6月清酒輸出実績は順調に拡大。スパークリング日本酒「澪」による市場開拓でアメリカ、香港、イギリスで伸ばし、韓国では「昴」900㎖パックが量販店への新規導入が進んだ。
空港ならではの視点で品ぞろえ
インバウンド消費が落ち着きを見せる中、日本酒の品揃えにも変化が出てきている。
羽田空港第3ターミナルでは、日本酒の売上が大幅に伸びた前期水準には届いていないものの、コロナ禍前の19年比は2倍以上の実績を保つ。
免税店を運営する日本空港ビルデングのリテール営業グループ免税事業部長の日暮孝之氏は「国内屈指のハブ空港として全国の日本酒銘柄を取り揃えている。近年においては、外国人のニーズに合わせて高付加価値品を拡充。意識的にプライスラインを上げている」と説明する。
売れ筋は「獺祭」「久保田」「八海山」「吉乃川『みなも』」「SAKE DRESS」などの銘柄をはじめドンペリニヨンの元醸造責任者が手がける「IWA5」、ペルノ・リカール・ジャパンが販売する「リンク8」などストーリー性の高いブランドも人気。
免税事業課長の清水雅士氏は「海外との玄関口として、一般的な酒販店とは異なる視点で品揃えを構成している。蔵元のこだわりや想いも伝えていきたい」と話す。