山形大学は昨年7月、「アグリフードシステム先端研究センター(YAAS)」(センター長・飯塚博研究担当副学長)を始動させた。これまで取り組んできた、生産・加工・流通が一体となった地域農業の活性化(6次産業化)をベースに、ITの活用や栄養・機能性研究の技術、ブランディングといった大学の「総合知」を融合。食料自給率向上や循環型農業の構築を目指す。
山形大学が鶴岡市やJA鶴岡などと取り組む「ビストロ下水道」プロジェクト。下水処理場で浄化された下水処理水や、浄化過程で生まれる汚泥を堆肥化したコンポストには、窒素やリン酸、カリウムなど肥料成分が豊富に含まれる。プロジェクトでは、こうした下水道資源の有効利用により循環型農業の地域への定着を図る。
農学部・渡部徹教授は「下水処理水の灌漑によって飼料用米を栽培する実証実験を行った。普通の水田と比べ窒素を多く含む実験水田から収穫された飼料用米は、タンパク質が豊富で収量も多いことが分かった。無肥料栽培のため、生産コストの15%を占める肥料コストも削減でき、農家の収入向上につながる」としている。
飼料用米を使った養豚やコンポストによる土壌再生など、プロジェクトの範囲は広がりを見せている。鶴岡市とはアユの養殖にも取り組んだ。「下水処理水を養分とした良質な藻類をエサにアユを養殖し、天然に近い独特の香りと風味が実現した。今春には『つるおかBISTRO鮎』として商品化される見通しだ」(渡部教授)という。
YAASは、ビストロ下水道をはじめ食料自給圏(スマート・テロワール)構想、アルファ化米、自然共生稲作などを軸としたプロジェクトを推進する。今後5年間で、山形大学ブランド食品を少なくとも3点市場に流通させる方針だ。
その一つとして注目されるのが、脱脂米糠(こめぬか)を活用した代替肉の開発だ。米糠から米油を作る際に、副産物として大量の脱脂米糠が発生する。脱脂米糠は肥料などとして利用されるが、その用途拡大が長年の課題となっていた。
山形大学は精米機メーカーのサタケ(松本和久社長)との共同研究により2018年、脱脂米糠から高濃度・高栄養価の米タンパク質を抽出する技術を開発した。農学部・渡辺昌規教授は「2025年を目途に、代替肉や栄養補助食品(サプリメント)などの供給・販売事業を開始したい」としている。
米糠由来の代替肉は、アレルゲンを含まず遺伝子組み換えもない安心・安全な食品。大豆由来の代替肉と同様の食感という。渡辺教授は「米は日本で唯一自給率100%を維持できている農作物。世界的なタンパク質危機を迎える中で、日本国内でタンパク質の安定供給インフラを構築したい」と意欲を示している。