目指せ!次世代型ビジネス 持続可能な業界づくりへも

2020年、令和になって初めての新年を迎えた。東京で約半世紀ぶりに夏の五輪が東京で開催される。五輪の開催地はその経済効果が期待されるところだが、55年前の東京五輪では、当時のGDP3.1%(9千870億円)をつぎ込んで大きな経済効果、社会変化を起こした。

予想ではGDP0.8%を使うことになる今回の五輪で、どんな経済効果がもたらされるか期待される。だが食品業界では依然として閉塞感が拭えず、五輪終了後の景気衰退を危惧する声が多い。

Sドラッグストア。持続可能な社会を形成するには、持続可能なビジネスモデルを持った食品企業が、持続可能な食品産業を構築しなければ実現できない。天候異変、原料高、人材難、物流コスト高、食品ロス、CO2の半減と業界が直面する課題は尽きないが、いずれにせよこれらの課題を解決しながら、国内でまず稼ぐ力を強めることが肝心だ。さらに国内需要が今後漸減するならば、積極的に海外展開できる経営基盤を整えることも急務となる。この一年は業界だけでなく各企業にとっても正念場の年になる。

加速化する業界の変化 決裁スピードで対応を

国際的には後手に回っていたキャッシュレス化は、 国が推進した結果徐々に浸透度を増している。この結果、決済は加速化したが、同時にビッグデータによって得られる購買情報がより精緻になることに繋がり、商品寿命が短くなったという指摘も生まれている。

メーカーは新商品を出し続け、しかも成功を収めないと売場を確保できない。また、トレンドに会わせた商品を提案できないと成功を得られない。〈ものつくり〉にとってはますます厳しい経営環境になってきた。トレンドにあわせて、あるいは半歩手前で商品化に結びつけるには、商品開発から発売の決定に至るまでの決裁スピードも速める必要がある。〈決済スピード〉の変化には〈決裁スピード〉も変化させる必要があるということだ。

昨年はロングセラーの終売が注目された。加工食品では、調味料などでロングセラーのブランド力を活かした商品開発も一頃急増したが、菓子業界では明治がチョコレート菓子「ポルテ」、東日本での「カール」、森永は「チョコフレーク」、江崎グリコは「キスミント」をそれぞれ終売した。いずれも時代を築いた各社の看板ブランドであり、長らく消費者に親しまれてきた商品。それでも製造を中止せざるを得なかったのは、事業構造の見直しをするなかで経営の効率化、合理化が避けられなかったからだろう。だが、こうしたロングセラー品の類似商品はスーパー、コンビニの店頭でPBとして棚に並んでいる。このことからPBがNBの売場を圧迫していること、消費者がブランドよりも価格を求めていることが分かる。

だが一方で、駅ナカ商業施設やキオスク、NEXCOのSAでは米菓をはじめ菓子全般、調味料などメーカーブランドを活用した手土産商品は高い購買率を確保している。価格だけではなく、ブランドに対する信頼、愛着が消費をかき立てているのも確かで、こうした消費者心理を紐解いた商品開発、販路開拓がさらに求められる。

ITで変容する商慣習 新チャネル確保も必須

ITネットワークの進化によって〈ビッグデータ〉によって得られた購買情報を商品開発に転換する潮流がこれから本格化する。ビジネスモデルの転換は過去にも存在したが、食品スーパーと比較すると、積極的な店舗開発を進めるドラッグストア、ディスカウンター業態はもはや無視できる存在ではない。今後これら業態の商慣習が食品業界の標準化となっていく可能性もある。

顕著な事例ではパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスがラックジョバーでの取引を卸売業に求めている。一部の酒類メーカーはすでに行っているが、食品産業ではこれまでになかった取引形態だ。これを食品卸が受け入れるのかどうか、そもそも可能かどうかは判明していないが、食品業界をこれまで動かしてきたビジネスモデルに今後変化を生じるのは間違いない。残念ながら、末端が決定権を握っているからだ。これを脱するには小売業に生殺与奪権を握らせないビジネスモデルを構築するほかないが、そのためには“B to B”ではなく“B to C”ビジネスの深堀りをするとともに海外市場への進出が不可欠になってくるのだろう。

ポスト五輪に不安も 健康軸はパラダイムシフト

今年は1月1日から日米貿易協定発効、4月1日からは働き方改革関連法施行される。キャッシュレス決済利用によるポイント還元は6月30日に終了する。7月1日からはコンビニ、スーパーのレジ袋が有料化へ。

東京五輪は7月22日から開催(開会式は7月24日)し、パラリンピックは9月6日に閉幕する。証券界では上半期で株価2万6千円台まで回復するとの予想もあるが、肝心なのは〈ポスト五輪〉だ。秋以降に向けてどんな準備をしておくか。

アンドレ・ジッドの小説「狭き門」は“狭き門より行れ”という文言が読み手に強い印象を与える。これは新約聖書の言葉だが、食品業界における“狭き門”とは何だろうか。ニッチ市場への新規開拓だろうか、全くの新規事業だろうか、はたまた海外市場だろうか。いずれも成功を収める過程では苦難を伴うのが確実で、すべてが“狭き門”かもしれない。だが、それでも歩を進めなければ先へと続けないのは確か。マーケティング力や発想の転換だけでなく〈狭き門〉をくぐり、その先に広がる道を目指すことも必要だ。

健康軸、環境軸意識した取り組みが、各社に広がっている。日清食品ホールディングスは培養肉の開発を、乳業大手に続きハウス食品も乳酸菌開発を。その一方で健康食品OEMメーカーでは、最大手のアピが一般食品向け機能性素材開発を進めて一般食品ルートへ、富士カプセルもカプセル技術を活用した加工食品向け提案を強化している。このように、これまでの垣根を乗り越えた取り組みが目を引くようになってきた。

健康軸の商品群では、プロテイン人気がこれから絶頂期を迎えようとしている。機能性表示食品も受理数が急増し消費者への認知はかなり浸透した。これから社会でさらに必要となる高齢者向けのメニュー提案、商品提案だが、このタイミングだからこそ固定概念を脱することも必要かもしれない。

たとえば「低糖質」「低カロリー」などの切り口が高齢者に対しても正しいのかどうか。この20年続いてきた「減塩」も同様でそろそろ是非論が必要だ。「減塩」の場合、付加価値としての位置づけで調味料では定番となっているが、競合品が増加。結果、差別化ができず、利益商品となっていないばかりか既存の通常商品を貶めるケースも少なくない。

鶏卵摂取量と同様、減塩と高血圧の相関関係はいまだはっきりしておらず、一部の言説による悪玉論だけが流通してしまっている。長らく長寿県だった沖縄県を抜き県別で最長寿県となっている長野県は、塩分摂取量で平均を上回るが、高血圧症患者数は47都道府県中32位。タイに次ぎ世界第2位の塩分摂取国・韓国は、世界でもトップクラスの血圧正常国として知られ、2030年には日本をしのぎ世界最長寿国になると予測されている。

個別の切り口だけで基礎調味料および食品の価値を損なう差別化を進めるのではなく、野菜摂取をはじめバランス感ある食メニューの提案、商品提案がこれからのトレンドとすることも必要だ。