國分勘兵衛 平成を語る〈6〉 食料価格危機と食品ロス

行き過ぎた鮮度競争 廃棄削減へ消費者と協力を

21世紀初頭の世界金融緩和に伴う“カネ余り”を背景に、平成18~20年〈2006~2008〉にかけて穀物等が投機対象になり、あらゆる食料価格が連鎖的に高騰した。さらに平成20年〈2008〉には投機加熱の反動としてリーマンショックが発生。国内消費も急速に冷え込んだ。世界経済が日本の食品業界をこれほど激しく揺さぶったのは恐らく初めてだろう。その中で日本の膨大な食品ロスにも厳しい目が向けられるようになった。

――12年ほど前、食品業界で「川上インフレ・川下デフレ」という言葉が飛び交っていたのを覚えていますか。

「ええ。メーカーが急激な原料高に喘ぐ一方、小売サイドでは激しい価格競争が続いており、卸は板挟みになりました。ただ、卸の経営が厳しいのはいつものことですから、当時のことはあまり印象に残っていません。その時その時の環境変化に機敏に対応していくより他にないわけです。それに、バイオ燃料特需に乗じた穀物投機という過去にない動きの中でも、国内の食品供給は安定していましたよね」

――業界内に値上げを巡る綱引きや収益の圧迫はありましたが、買い占め・便乗値上げ等の混乱もなく、比較的落ち着いていました。メーカーの値上げ幅も小さく、国民生活への影響は最小限に抑えられていたと思います。

「それだけマーケットが成熟したということです。そう考えると成熟・飽和も悪いことではありませんが、慢性的な供給過剰が食品ロスという別の問題を引き起こしていることも否定できません」

――世界食料価格危機の頃、その問題に厳しい目が向けられるようになりました。

「世界的には食料需給が年々タイトになっているわけですから、まさに国家的な課題です」

――しかし、国内食品ロスは依然として600万t半ばの高位安定で推移しています。その55%を占める事業者系食品ロスもほとんど減っていません。なぜでしょうか。

「平成の供給過剰の中で細かい鮮度管理や納品期限が競争条件として定着してしまったのが大きいのではないでしょうか」

――3分の1ルールに基づく厳格な納品期限の設定や日付逆転納品の禁止などですね。

「ええ。東日本大震災の発生を契機に賞味期限の延長、年月表示化、3分の1ルールの緩和といった改善気運が広がったとはいえ、鮮度イコール競争条件、少しでも日付の新しいものを売りたいという考え方は依然として根強いものがあります。そのことがコストアップ要因にもなっています」

――そのコストが価格に転嫁されれば、最終的に消費者利益を狭めることになりかねません。

「私たち食品業界の行き過ぎたサービス競争が消費者の鮮度に対する感覚を麻痺させてしまった部分もあり、この点は率直に反省すべきです。食品ロスを生みやすい商慣行を業界ぐるみで見直す一方、消費者の方々にも鮮度に関する正しい知識を持っていただくことが大切だと思います」

――たとえば、製造年月日表示が主流だった時代のように、食べられるかどうかを自分で判断する力を持つ。そういうことでしょうか。

「そうですね。それから無駄を出さないための保存方法に関する啓蒙も必要でしょう。今後はそういうところに食育の比重を移していくべきではないでしょうか。ただし、食品にはアレルゲンの有無のように五感で判断できない部分もありますから、そうした表示や情報提供については、さらに充実させていく必要があります」

(本号より第2部を毎号掲載/聞き手=東京本社編成局・横田弘毅)