11月5日にカルビーアンテナショップ「カルビープラス東京駅店」で数量限定発売されたカルビーの代替海苔「のりやん」が、好評につき発売3日目の7日に完売し「のりやん」量産化へ弾みをつける成果を挙げた。
量産化が実現されれば、海苔業界と共存して一大市場を形成する可能性が、11日実施した「のりやん」発案・開発者の工藤凜平さんへの取材で浮き彫りになった。
工藤さんは「お客様から『見た目の味わいも本物の海苔のようだ』と多くの方からご好評をいただき、想定よりも良い結果になった。今後は量産化に取り組んでいく。今回の結果は、量産に適した新設導入に向けて、プラスに働くはず」と意欲をのぞかせる。

「のりやん」は、海苔の漁獲量減少や海苔の価格高騰を受けて、安価な主原材料としてじゃがいもでんぷんを使用して作られた代替海苔。
価格は、スタンドパウチに1口サイズの代替海苔を30枚ほど(4.5g)入れて税込198円。
生産にあたり手作業によるところが大きいためコストメリット創出には至っていないが、量産化が実現された際には「価格を市販海苔平均価格の半額程度に抑えることが目標。賞味期限も4か月からまだまだ伸ばせる」と自信をのぞかせる。
量産化で獲得を目指すのは、海苔そのものの味わいを楽しみたいニーズではなく、添え物として海苔を必要とするニーズやスナックニーズとなる。
「海苔と共存して選択肢の1つになれればいい。コスト面を考えて、海苔ではなく『のりやん』」を選択される方が一定の割合でいるものと想定している」と述べる。

味付けのバリエーション・カラーバリエーション・栄養素の添加という主に3つのアプローチで、海苔では取り切れないニーズの獲得も見込む。
「味付け海苔は完成した海苔の表面に調味料を添加したものであるのに対して、『のりやん』は原材料の中に調味料を混ぜ込むことができる。これにより、表面がベタつかない味付けにすることもできる」と説明する。
ベタつかない多彩な味わいで間食・スナック需要も取り込む。栄養素を練り込むこともでき、子ども用の健康的なお菓子の打ち出しも可能となる。
今回、「だし醤油味」と「わさび塩味」の味付けした2品を発売したが、味付けをしていない「のりやん」そのもののも賞味に値するという。
「塩味・旨味・甘味が海苔と近い設計となっており、今後の間口(喫食者)の広げ方として海苔のように使っていただけるように味付けをしていないものも発売していきたい。店舗で販売されるおにぎりやお弁当などBtoBビジネスも目指していきたい」との考えを明らかにする。
カラーバリエーションも味付け同様、原材料を混ぜ込んで作られることから多彩な展開が可能となる。
「植物由来の色素を加えることで、海苔そのものでは難しい赤や青にすることができる。食品シートの役割も果たすことができ、さらに様々な用途で使用いただける可能性があると考えている」と力を込める。

「のりやん」は、工藤さんの探求心とアイデアを摘み取り開発支援するカルビーの社内体制の2つが重なり合って誕生した。
東京科学大学大学院(当時・東京工業大学)で生命理工学コースを学修した工藤さんは当初、在学中の微生物研究が活かせる医薬系・健康食品系の企業への就職を希望していたが、途中で進路を変更した。
「就職活動しているうちに非常に疲れてしまい、身体の健康を考えているのに心が不健康になってしまった。そんなときにスナック菓子を食べると心が安らぐ瞬間があり、心や精神に安寧をくれる商品に興味を持ちカルビーを志望した」と振り返る。
開発を希望し、2021年に入社して最初に配属されたのが北海道工場(北海道千歳市)。ここで「じゃがポックル 」包装ラインを1年担当した後、研究開発本部(栃木県宇都宮市)内で22年に新設された次世代商品開発部のメンバーの1人に選ばれる。
次世代商品開発部はその名の通り、次世代の柱商品を生み出すべく新規商品の開発に特化した部署となる。ここで工藤さんは先輩社員の仕事を補助し、通常の3倍の厚さのポテトチップス「ポテトデラックス」(現在は販売終了)の開発にも携わる。

研究開発本部では、年に1,2回、社歴を問わず新しいアイデアの発表の機会が設けられる。この機会を利用して工藤さんが23年に発表したのが「のりやん」の原案だった。
海苔の漁獲量減少や海苔の価格高騰のニュースを受け「安価な原材料で海苔の代替になるものができないか」と思い立ち、研究・試作品づくりに取り組んだという。
安価な原材料として注目したじゃがいもでんぷんは、カルビーの工場でポテトチップスなどをつくる過程で出てくる副産物であることからコスト面の条件をクリア。
加えて、じゃがいもでんぷんは通常、飼料などに利用されることから、これを商品に使うことで、カルビーの創業の精神である未利用資源の活用にも当てはまるものとなった。
アップサイクルの要素は後付けであり「海苔が高すぎることから、安価な原材料で作ろうというアイデアが生まれて、じゃがいもでんぷんに辿り着いたのであって、最初から未利用資源だから使おうと考えたのではない」と吐露する。
研究開発本部のアイデア発表会に持ち込んだ最初の試作品は、分厚く硬く未完成のものであったが、それを口にした江原信社長兼CEOが思わず「これ、のりじゃん」と評されたことも手伝い次のステップへ進むことになる。
次のステップとは、23年度に開始した既成概念にとらわれない商品・サービス・業務プロセスを募集する制度「Innovation&Beyond Festa」への応募だった。
「発表会でご評価いただき、上司に背中を押されて社内公募に応募した」と振り返る。
「のりやん」は81件の募集案の中から大賞を受賞。受賞すると商品化に向けてプロジェクトチームが組まれ、マーケティング本部や品質保証本部、経営企画本部どの担当者と連携しながら中身やパッケージ、販売戦略などを練り上げていった。
食感を本物の海苔に近づけるにあたっては、構想開始から発売が決まるまでの約2年間で、少なくとも2000回の試作を重ねたという。
「のりやん」の名付け親は工藤さん。「これまでにない得体の知れないコンセプトであるため、拒否感を抱かれず愛着を持っていただけるように、思わず口にして呼びたくなるニックネームのようなものとして命名した」と語る。
試作レベルから商品レベルに達するには、機械を新調する必要があった。この判断を下し稟議をあげたのも工藤さんだった。
「最初に苦労したのは何で作るか、であった。既存の設備ではお客様にお渡しできるようなレベルのものにはならないと判断した。結果として、新しい機械を導入したことで開発は加速度的に進んだ」という。
原料のじゃがいもでんぷんは、ポテトチップスなどの副産物として出されるため、じゃがいもの安定調達が欠かせない。
「現状のじゃがいもの量であれば量産化に必要な量を十分に賄えるので今のところ心配していないが、『のりやん』が事業として軌道に乗れば、じゃがいもでんぷん以外の副産物も探していきたい」と意欲をのぞかせる。


