味の素 中村茂雄社長 企業活動に「高速開発システム」を バイオ&ファイン事業の成長を加速

藤江太郎前社長の体調不良により、2月よりから急きょバトンを引き継いだ味の素の中村茂雄代表執行役社長(最高経営責任者)。

「藤江前社長から志を受け継ぎ、ASV経営を進化させ、2030ロードマップの前倒し達成に挑戦する」とし、受け継いでいくもの(アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献する志)と進化させていくものを明確にすることで、ロードマップの前倒し達成を目指している。

ロードマップのポイントは、バイオ&ファインケミカル系事業の成長を加速させ、2030年に食品系事業の事業利益と同等規模にすること(21年は1対2)。ただし食品事業とバイオ&ファインケミカル事業を区切らず、グループの強みを発揮し、融合しながら互いの成長を目指す方針で、ロードマップの前倒し達成にとって同事業に精通する中村社長は欠かせない存在と言える。

アミノ酸をベースにした機能性材料に関する研究を主軸に20年以上、半導体パッケージ基板用の絶縁材料「味の素ビルドアップフィルム」開発につながる事業に初期からかかわるなど、食品メーカーには珍しく技術畑出身の中村社長。電子材料事業の経験で培った考え方を自ら構築した「高速開発システム」で再現し企業活動に生かす考えで、システムの解説になるとおのずと熱が入る。

言い換えると「今日できることを明日に先送りしないことの積み重ね」とし、味の素ビルドアップフィルムの成功には必要不可欠なアプローチだったが、「それ以外の事業や機能にも応用・進化が可能」だと言う。

システムの本質は、「人・モノ・金・情報+時間を経営資源と捉えること」と指摘。「目まぐるしく変化する今日の市場の中、俊敏性をもって顧客環境に対応し、顧客ニーズを先読みし、複数のソリューションを迅速に開発、フィードバックに基づき継続的にソリューションの改良やプロセスを合理化すること」。

ブラジル味の素社長(22年4月~)の折に、このシステムを食品事業(BtoC)に導入した結果、新製品数が倍以上に増加し、事業利益も二ケタパーセント拡大するなど好結果が得られたと振り返る。システムは、ニーズの明確化、戦略構築、味の素グループの技術活用、マーケティングではスピード重視(人海戦術も)、発売、検証(販売データ解析)などの手順で進められた結果、新製品開発スピードがアップし、販売数も増加した。また「ブラジル味の素社は、製品開発をリレー型から伴走型に変えたことで開発のスピードが上がった。日本も伴走型に切り替えることで進化できる余地がある」と言う。

フィロソフィーは「パーパスからちゃんと考えてちゃんと実行に繋げる!」。「パーパスだけではきれいごとになってしまう。パーパスを掲げるだけでおしまいにせず、各社員が自分事化した目標に落とし込み、全社戦略や機能戦略に磨き込みをかけ、各組織が情熱をもって達成を目指すことで実行力を高める。今後はパーパス振興活動から“ちゃんと考えて、ちゃんと実行する”実行力強化の段階であり、それらを支える人材、組織、企業文化を大切にしながら進化したい」方針だ。