「『選択と集中』よりも『事業創造』」 事業領域を拡大するブルボン  「お役に立てる企業であり続ける」が創業の原点

 関東大震災で地方への菓子供給が全面ストップしたことを受けて “地方にも菓子の量産工場を”との決意のもと、大震災から約1年後の1924年11月、新潟県柏崎(市制施行は1940年)で創業したブルボン(当時・北日本製菓)。地震など自然災害への危機意識を常に持ちつつ自然との調和を重視して千年の大計を描く。

 祖業はビスケット製造。災害や社会的困難が発生した際にも“お役に立てる企業であり続ける”という創業の原点を持ち続け、事業領域を拡大している。

 そのような中、ミネラルウォーターについて、1995年、飲料水の水質悪化に対応するため、創業からの念願であった社会貢献の2本目の柱としてペットボトル入りの2L天然名水を発売。工場での生産開始日が阪神淡路大震災と重なったことで、生産品は急遽救援物資に充てられた。

 また、近年の感染症拡大に対しては日本製素材のマスクを製造販売して非食品分野にも取り組んだ。

保存缶食品 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
保存缶食品

 現在、ブルボンが手掛けるカテゴリは、ビスケット、チョコレート、米菓、豆菓子、スナック、グミ・キャンデー、飲料、粉末ココア、カップゼリー、冷菓、保存缶食品など多岐にわたり、商品数は200SKU以上。2010年にはエチゴビールを完全子会社化してクラフトビールも手掛ける。

 ラインアップが多品種に及ぶと製造効率や輸送効率との兼ね合いが課題になりそうだが、吉田康社長は「“選択と集中”はアメリカ的経営の発想だと思うが、私たちは雇用維持のため事業創造を優先する」と言い切る。

 選択と集中の考え方と真逆にあるものに渋沢栄一の思想を挙げる。渋沢栄一は一生涯のうち約500社もの企業を興した。

 「渋沢栄一を再評価する動きがあるが、必要があれば、どんどん事業を興さなくてはいけない」と指摘する。

 社会課題が多い中にあっては、ひときわ多くの事業を興す必要があるという。

 「“地方の地方”である柏崎市で、今後100年、1000年先も頑張っていくためには、ビスケットや菓子といったカテゴリを超えていく必要がある。会社では“これからの時代に必要な新しいものや技術が出てきたら、すぐに確認するという姿勢だけは持ちなさい”と言い聞かせている」と述べる。

ボトル缶コーヒー「雪室研ぎ澄ます珈琲」(左) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
ボトル缶コーヒー「雪室研ぎ澄ます珈琲」(左)

 ブルボンでは、失敗を恐れないチャレンジ精神が尊重される。

 創業以来、チャレンジの連続だったという。
 「初代はいろいろなものをやるタイプで、今で言うと地産地消でイカの塩辛を製造し売ったりしていた。昭和7年には輸入チューインガムに対抗すべく、チューインガム製造販売を手掛けた。先代社長(3代目)の吉田高章は、インスタントコーヒーが輸入されたのを受けてインスタントコーヒーに参入した」と語る。

 いくつかの商品は市場から消えたが、ブルボンでは撤退とは捉えない。

 「何か新しいことをやるときには4つのエネルギーの素を持ちなさいという教えがある。その1つが“やってみて上手くいかず残念だったという気持ちが残っているのなら、それを忘れずに常に持ち続けなさい”ということ。3代目も“やめた”とは言わすに“休んでいるつもり”と言い張り、再チャレンジの気持ちを持ち続けていた」と説明する。

 3代目が撒いた“コーヒーの種”は今も脈々と受け継がれている。2022年11月に竣工した魚沼工場(新潟県魚沼市)にある雪室の原料保管倉庫にはカカオ豆とともにコーヒー豆が保管され、今年3月5日には、雪室で熟成させたコーヒー豆を使用したボトル缶コーヒー「雪室研ぎ澄ます珈琲」を新発売した。

 「コーヒー事業を大きな柱にしたいという想いは今も変わっていない。先代社長から引き継がれた“松明”をしっかり持っている」と力を込める。

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