三陸の嗜好品「まつも」の絶滅を陸上養殖で復興目指す 阿部伊組「SEASON」

阿部伊組(宮城県本吉郡南三陸町 代表阿部隆)は、北里大学、理研食品との共同研究により、三陸地域の特産品「まつも」の陸上養殖に向けた実証実験に成功した。年度内には都内ホテルレストランなど域外外食事業への卸販売を開始する予定。

同地域では震災以降地域水産品の減産が続いているが、陸上養殖により特産品の事業復興のモデルケースづくりを目指す。

「まつも」は日本全国に生息するが、近年絶滅の恐れが高いとされている海藻。三陸地域では高級品として好まれ、高値で取引されているが、震災以降収穫量が減り続けていた。現在は市中に出回る機会が少なくなっており、食品としての存続すら危ぶまれている。

同社は「まつも」の陸上養殖を事業化し、安定供給を目指すことを目的に「SEASON -Seaweed Specialty Store-」 (阿部将己代表)を設立した。

施設で収穫された「まつも」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
施設で収穫された「まつも」

養殖の実用化は、「閉鎖式エアーリフト法」を用いて種苗の陸上養殖で研究成果を持つ北里大学、理研食品との取り組みによるもの。現在は理研食品の陸上養殖施設(陸前高田ベース、岩手県陸前高田市)の一角で生産しているが、2026年(令和8年)までに自社施設を稼働させる。

「まつも」の年間収穫量は、地域全体(宮城・岩手・青森)で震災前は2~3tだったが、現在は200kg程度にまで落ち込んでいた。SEASONの阿部代表は「スタートアップの現段階は乾燥重量で約30kg。今後年間1tにまで拡大したい」としている。

収穫された「まつも」は、近域で収穫された海藻類とあわせ、オリジナル商品「三陸海藻バター」などとして販売中。また卸販売では、都内のホテル大手からも「まつも」に加え、他の海藻の供給も依頼されている模様だ。

「三陸海藻バター」(season) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「三陸海藻バター」(season)

海藻は国内に2000種、南三陸地域だけでも200種以上あり、現在食用とされているものは約50種だが、市中に出ているものは数種類のみ。近年ではアカモクが好事例だが未利用海藻が、栄養価とともに商品価値の高い食品として認知が広がるケースもある。今回の「まつも」は、高密度に養殖でき、収穫時に異物除去作業が必要ないなどの特性により数ある海藻のなかから選択したもの。

今後の展開について同社では、地域水産業の後継者不足や海水温上昇による水揚げ量の減少などの課題解消に向け、陸上養殖技術の向上と収穫物の加工販売を強化していく方針。

海藻原料の生産から最終製品の販売まで一気通貫したビジネスモデルを構築し、地域水産業の振興を目指す。

なお今月19日には、宮城県南三陸町にアンテナショップ「SEASON cafe&shop」を開設した。同店では養殖「まつも」を使用した海藻スープや海藻バターの他、茎わかめを練りこんだ海藻ソーセージなどのオリジナルメニューを提供し「まつも」をはじめとした地産海藻類の特産品開発をさらに進めていく。