ペットボトルや缶のラベルで新発見 推し活需要獲得やファンづくりの可能性浮上 サントリーがカスタマイズできる新サービス提案

 通常、飲料のラベルのデザインは統一されている。それがカスタマイズ可能となり、“推し”の名前や憧れのスポーツ選手の写真が入るようになれば、“飲む”ことだけに留まらないコレクションなどの新たな可能性が浮上する――。

 この新発見を見出したのはサントリー食品インターナショナル。ミス・マーケティング(後述)から着想されたものとなる。

 新発見とは、個人でカスタマイズした飲料を作れる「TAG-COFFEE STAN(D)」と法人がカスタムラベル飲料を簡単に作成・販売できる「TAG LIVE LABEL」という2つのサービス。

 「TAG-COFFEE STAN(D)」は、“バナー”と呼ばれる3500種類以上の画像と好きな言葉を組み合わせたラベルを、甘さなどを調節した中味と組み合わせることで、オリジナルの飲料を作ることができるサービス。

 機材貸し出しの形で、現在全国8か所に展開し、さらに拡大していく予定となっている。

サントリー食品インターナショナルの高橋大樹SBFジャパンイノベーション開発事業部ビジネス開発部課長代理 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
サントリー食品インターナショナルの高橋大樹SBFジャパンイノベーション開発事業部ビジネス開発部課長代理

 同サービスについて、12月6日、「第8回 ドリンク ジャパン」で講演した高橋大樹SBFジャパンイノベーション開発事業部ビジネス開発部課長代理は「マスプロダクトから、マスカスタマイゼーションと言えるような商品の需要に気付いた。この可能性の広がりで、飲料業界をより盛り上げていきたい」と熱意を見せる。

 同サービスは、ミス・マーケティング、つまり失敗から生まれたものとなる。

 2019年6月の展開当初は、都内のオフィスワーカーを対象にしたカウンターコーヒーの待機時間を解消するソリューション提案であった。
LINEで注文すると店舗で飲料を受け取れる新事業として展開していた。

 高橋課長代理は「毎朝コンビニで並ばなくても、好きなドリンクをすぐに受け取れるという新しいライフスタイルの創造が目的だった。後ろに並んでいる人がいると、メニューを選ぶのにもつい時間を気にしてしまう人も多い。ゆっくりとメニューを選べて、かつスピーディーに受け取れるという愉しさと時短を両立したサービスだった」と振り返る。

好きなドリンクをすぐに受け取れる2019年6月展開当初の「TAG-COFFEE STAN(D)」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
好きなドリンクをすぐに受け取れる2019年6月展開当初の「TAG-COFFEE STAN(D)」

 長年の飲料ビジネスの経験から、幅広いエキスによる豊富なバラエティや製品の提供スピード、クオリティには自信があった。
 しかし、近隣のオフィスワーカーにはこのサービスが定着しなかった。

 アンケートの分析結果、“中身もラベルもオリジナルのドリンクを作る”という行為は、“ここでしか作れない、世界にひとつだけのコーヒー”と受け止められ、自分へのご褒美など特別な時にのみ利用されていたことが判明した。

 そのため、毎朝の日常的な習慣としては定着しなかった。指定された時間に店舗へ受け取りに行くという行為を、煩わしく感じてしまうユーザーもいた。

2019年6月展開当初の「TAG-COFFEE STAN(D)」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
2019年6月展開当初の「TAG-COFFEE STAN(D)」

 その一方、20代~30代の女性が、遠方からラベルのカスタマイズを目的に続々と店舗に訪れる動きもみられた。

 本来は「TOUCH-AND-GO COFFEE」という名の通り、スピーディーに受け取りすぐに退店できる点がウリだったが、店内は“推し”の名前が入った特別なドリンクを記念に撮影する人であふれかえってしまった。

 「“推し”の名前や誕生日を入れたカスタムラベルのボトルの写真をSNSにアップする“推し活”としての需要が大きく、一人で何本も買われていくケースも多かった。当日の朝5時から予約を受け付けていたが、予約開始1時間でその日の予約が一杯になり、オフィスワーカーがはじき出されてしまうという状況が続いた」(高橋課長代理)という。

「TAG LIVE LABEL」では、自社のコンテンツ素材で作成したラベルをプリントし、専用の缶に貼ることで、簡単にオリジナルラベルの缶飲料を作成し販売することができる - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「TAG LIVE LABEL」では、自社のコンテンツ素材で作成したラベルをプリントし、専用の缶に貼ることで、簡単にオリジナルラベルの缶飲料を作成し販売することができる

 このような状況を受け、サービス目的を180度転換してラベルのカスタマイズに重点を置くことにした。

 ターゲットをこれまでの「オフィスワーカー」から「カスタムで表現を楽しむ人」に変更。働く人の習慣化のためにデイリープライスにしていた価格を600円前後の高単価に変更したことで、厳しかった利益面も改善していった。

 これにより「個人のお客様に対して幅広いコミュニケーションが可能になった」(高橋課長代理)。

 カスタムラベルの潜在的な需要をさらに獲得すべく、2023年4月には法人がオリジナルラベルの飲料を販売できる「TAG LIVE LABEL」というサービスを開始した。

 「TAG LIVE LABEL」では、自社のコンテンツ素材で作成したラベルをプリントし、専用の缶に貼ることで、簡単にオリジナルラベルの缶飲料を作成し販売することができる。

現在の「TAG-COFFEE STAN(D)」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
現在の「TAG-COFFEE STAN(D)」

 画像以外にも日付や場所が入ったオリジナルラベルは、二重シールとなっており飲用後もステッカーとして利用できるため、グッズとしての有用性も高く、スポーツチームのグッズや、コンサートの記念グッズとしての導入を見込んでいる。

 既に導入している映画館では、観賞した映画の画像や日付などが入るためお土産として人気だという。

 同社が持つラグビーチームの東京サントリーサンゴリアスのファンイベントでの導入例も紹介した。

 高橋課長代理は「20人以上の選手が在籍するチームのため、ロットや在庫の問題を考えた結果、選手の肖像が入ったグッズはこれまで出していなかった。『TAG LIVE LABEL』は共通の缶にプリントしたラベルを貼るため、それらの課題を解決することができた。好きな選手の写真や日付の入ったラベルのドリンクは、イベントに行った思い出になるとお客様に大変喜んでいただき、およそ2時間で約1000本が売れた」と振り返る。