昨年5月の新型コロナ5類移行により、生活はコロナ前の日常を取り戻したように見える。人の流れが戻り、インバウンド需要も拡大。飲食業や観光業は回復した。一方で物価高が続く中、消費環境は変化し強まる節約志向は物量の減少を招いている。不安定な世界情勢、為替の行方など不安要素も多く先行きの不透明感は拭い切れない。こうした現状をどう受け止め、今後どのように舵を切っていくのか。今年も業界リーダーアンケートを実施し、各社の取り組みを聞いた。
1.今年の景況感 「見通せない」「良くなる」「変わらない」が均等 「悪くなる」は減少
今回もまずは「今年の景況感」をどう見るか尋ねた。選択肢は23年に比べ「良くなる」「悪くなる」「変わらない」「見通せない」の4つ。まだコロナ禍にあった昨年は「見通せない」が40%と最も多く、先行きの不透明感が根強いことを示した。
それに対し、今回も「見通せない」が最も多かったという結果は同じだが、その比率は9ポイント低下し、「変わらない」(16ポイント増)、「良くなる」(6ポイント増)とほぼ同じ割合となった。一方、「悪くなる」は14ポイント減り、前年より明るい兆しも感じられる。
「良くなる」の理由としては、インバウンド需要の回復を挙げる声が多い。日本政府観光局が発表した昨年10月の訪日外客数は、コロナ禍以降初めて2019年の数字を超えるなど着実に増えている。「インバウンドの急回復で主要顧客の飲食店やホテルが回復基調にあり、24年もこの流れが続くとみている」(資材)、「国内旅行のリバウンド需要とインバウンド消費の回復持続で、消費拡大を期待」(製糖)など、国内外の旅行者を含め、飲食業や観光業が回復した流れが続くという期待の声が強い。
その中で「以前のような爆買いは少なくなったが、日常的な商品を購入される方が増えており、この傾向が続くと思われる」(コンビニ)と、変化した外国人観光客の消費ニーズをいかに獲得するかもポイントとなっている。
経営環境悪化の一因にもなっている円安や人件費の高騰だが、それをプラス要因として期待する声もあった。「円安効果で輸出産業が活性化している。食品業界にもその効果を期待する」(水産)、「賃上げムードが継続し値上げが一段落すれば、購買意欲も高まる」(穀物)、「物価高が企業の利益正常化につながり賃上げや雇用促進に反映され、景況が好転することを期待する」(海苔)。
「悪くなる」という回答の背景にあるのは物価高だ。「製品価格の上昇が続いており、購買意欲が上がるには時間がかかる」(缶詰)、「ディスカウントやドラッグストアの台頭で、満足のいく価格転嫁ができていない」(漬物)など、節約志向の強まりや価格転嫁の難しさが浮き彫りに。
また、「円安傾向が続くと買い負けが深刻化し、業界にとって大きなリスクとなる」(冷凍食品)、「全国展開するスーパーの出店により地方のスーパーは厳しい状況に置かれており、それは24年も継続する」(地域卸)というように世界的な情勢、あるいは地方における課題などそれぞれが抱える問題も見えてくる。
昨年より大きく増えたのが「変わらない」という回答。「外食は回復基調で業務用は良いが、家庭内消費は伸び悩みが予想される」(調味料)、「人流回復などのプラス要因はあるものの、物価上昇による消費マインドの減退で相殺」(製糖)など、一方が良ければ他方が厳しく、結局変わらないという見方だ。
そのほか、「値上げが続き、買い控えの影響も続くと予想される」(水産)、「賃金が上がったとしても消費の拡大につながるほどかは分からないので、景況感も大きく変わらない」(惣菜)との声があった。
昨年からは減ったが、今回も最多だったのが「見通せない」という声。その理由で目立つのが不安定な国際情勢である。「主要国による紛争問題は世界の秩序を破壊する」(製糖)、「世界全体が経済的に不安定な状況の中、見通しが難しい」(冷凍食品)。そのことは原料事情にもつながる。「調達が落ち着かないと安定的な販売につながらず、先が見通せない」(乳業)。
2.コロナ前後で売上高は? 「増加」が7割超える 背景に値上げ、需要の変化
次の質問も昨年に続くもので、コロナ禍前の2019年度と23年度の売上の変化を聞いた。その結果、7割を超える企業が「増加」と回答。
「ポストコロナの機運が高まり、人流の回復とともに消費が活発化した」(コンビニ)、「食料品の売上高が堅調で、コロナ禍で落ちた衣料品や住居関連品も回復している」(スーパー)。新型コロナの5類移行で人の流れが戻ったことは飲食業だけでなく、大型スーパーやコンビニにとってもプラスとなった。メーカーからは「展示会の再開やリアル商談の復活により、積極的な営業活動ができるようになった」(冷凍食品)との声も聞かれた。
「コロナがきっかけで購買された方に、継続的に買っていただき売上が増加した」(調味料)、「コロナによる健康意識の高まりから主力商品が伸びた」(健康食品)などコロナ禍での巣ごもりや健康志向を経て、新たな支持を獲得した商品もある。
また、「節約志向を背景に、コスパの良い商品群が伸びている」(ふりかけ)、「企業の省人化ニーズは強く、コロナ前より機械化の意識が高まっている」(機械)というように変化したニーズを捉え、伸長につなげた例も見られた。
ただ、売上の増加した一番の要因が値上げであることは明らかである。帝国データバンクが調査した2023年の主要食品メーカーによる値上げ品目数は3万2千400個で、22年より6千700品目増えた。
だが、十分に価格転嫁できていなかったり、原料がさらに高騰したりと苦心する現状も浮かび上がる。「価格改定で売上は過去最高になったものの、それを大幅に上回る原価高のため抜本的な改善にいたっていない」(調理食品)、「値上げと増産効果で売上は向上するが、原料高で減益になる可能性」(調味料)。
「同じ」と答えたのは17%。「5類への移行と値上げ効果で、ギフトと業務用が牽引しコロナ前の水準に回復」(海苔)、「減少していた外食・中食・土産の需要が戻りつつあり、コロナ前の売上水準に回復」(畜産)。コロナ禍で落ちていた商品や業態の売上が回復したことが主な要因となっている。
8%が「減少」と答えた。「可処分所得が減っている」(缶詰)、「家庭内消費の減少と低価格商品の需要増加」(調味料)など、物価高や節約志向を背景にした消費動向の変化が影響しているようだ。このほか、「メーカーの設備導入の遅れ」(資材)、「地元小売業の閉店」(卸)といった理由もあった。
3.最重要課題は? 「コスト高」への対応が4割 「物流」、「人材」が続く 商品開発や営業政策も
様々な経営課題が山積する今、「コスト高」「物流問題」「人手不足」の中で今年、特に注力すべきものを選んでもらった。
その中で約4割を占めたのがコスト高に関するものだった。「必要な価格改定と規格変更」(乾物)を進めながら「主力ブランドに集中する」(菓子)というように、商品を絞り込み、生産性の向上を実現するという姿勢が見られた。加えて「不採算取引の見直し」(漬物)や「デジタル化の推進」(ふりかけ)にも注力する。
その次に多く挙げられたのが2024年を迎え、喫緊の課題となっている物流問題。「積載・配送効率の向上に取り組む」(アイス)、「段ボールの規格統一による効率向上」(畜産)、「翌々日配送とモーダルシフトの拡大」(調味料)、「受注の早期化により最適な輸送ルートを計画する」(製塩)といった対策が挙げられた。
卸からは「物流合理化のチャンスと受け止め改善を推進する」「ピンチをチャンスに変える可能性を秘めている」と前向きに捉える声が少なくなかった。
人材不足も15%で、物流問題とほぼ同じ割合となった。「採用のため労働環境の改善が必要」(卸)との指摘が多い。具体的には「賃金の引き上げや有給取得など、働きやすい環境作りで会社の魅力を高める」(水産)、「持続的な成長を実現するため、キャリア採用を積極的に進める」(製糖)、「時期を問わず募集し、将来の人材を確保する」(海苔)など先を見据えた回答が目立った。
3割の企業はそのほかの様々な経営課題を挙げた。「注力ブランドへ投資し、より強力に」(酒類)、「商品開発に注力」など商品に関するもの、「国内市場が縮小する中、新たな市場の開拓」(機械)、「価格が変わり新しい売り方、価値の届け方が重要になる」(卸)、「商環境の変化を見据えた事業構造の変革」(小売)など、新規開拓や環境変化に伴う新たな営業政策などを挙げる声も多かった。
4.賃金アップは実施? 9以上が「実施」「検討中」 厳しい現実も
毎年のように最低賃金が引き上げられ、昨年は大手企業を中心に賃上げの発表が相次いだ。ただ、経営環境が厳しい中、特に中小企業では人件費の増加は経営に大きく影響する。実際に賃上げは進んだのか。9割以上が「すでに実施」「検討中」と回答した。
「ベースアップに加え、子育て支援と生活応援の手当てを支給」(水産)、「賃上げとともに物価上昇を受け一時金を支給」(コンビニ)、「従業員が安心して働ける給与水準を検討」(畜産)など物価上昇の中、従業員の生活を支援する姿勢が示された。
また、社員の士気向上と若手を中心とした人材確保へ向けた取り組みも進む。
「より良い戦力の確保に不可欠」(乾物)、「より高いモチベーションを持って活躍してもらうため」(製糖)、「安定した人材の確保と育成の観点から、若手社員を中心に実施」(乳業)、「若い社員の離職防止とモチベーションアップのため初任給を引き上げた」(機械)、「募集条件で競争力を高めるため」(製粉)。
一方で「従業員の負担増に対応したいが賃上げできる状況にない」「中小では難しく、作業の効率を目標として投資を考える」といった厳しい現実も浮かび上がった。
5.サステナビリティ、SDGsへの取組み
経営環境が厳しさを増す中でも、サステナブル経営やSDGsへの意識が高まり、企業は様々な活動を実施している。そのなかでも特に重点的な取り組みを挙げてもらった。
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【メーカー】▽海洋プラ問題、水産資源の有効的な活用(水産)▽プラ容器から紙容器へのシフトと詰め替え製品の開発によるプラごみ削減(海苔)▽国産原料100%使用による調達CO2の削減(菓子)▽リサイクル率の高いスチール缶の使用を推進(缶詰)▽原料産地の人手不足に対し収穫の手伝いなどを実施(酒類)▽加工技術を磨きアップサイクルのための原料確保に注力(健康食品)▽賞味期間の延長につながる自社充填機の拡大(機械)▽原材料調達、特に農業の持続可能性を高める(惣菜)▽食物アレルギーを持つ人にも安心して食べてもらえる商品ラインアップの拡充(調味料)▽必要な原材料を適切に調達し社会に評価される調達体系を整える(製粉)▽製造から販売までが一体となり食品ロス削減を積極的に進めている(海苔)
【流通】▽買物弱者に対する協同配送事業のフォロー。CO2排出量の削減にもつながる(卸)▽食品廃棄ロス対策を自治体とともに協議(卸)▽消費期限の迫った中食商品の値下システムを簡素化し、食品ロスの削減に(コンビニ)▽配送の合理化による環境負荷の低減と需要予測による食品ロスの削減(卸)▽自家消費型太陽光パネルの設置(スーパー)▽在庫品の賞味期限管理をさらに強化し廃棄ロスを出さない(卸)
(1月1日付本紙に各社の回答を掲載)