酪農家の共同出資で99年に設立した奥中山高原農協乳業(岩手県二戸郡一戸町)は、「自然との共生」を使命に、高原の豊かな自然の中で良質な牧草を食べて育った健康な乳牛から絞った生乳を現地で製造パックし、消費期限が短い低温殺菌牛乳は深夜0時から充てんを開始するなど新鮮なまま消費者に届けている。売上の9割は飲用向けで、大手チェーンのPBの低温殺菌牛乳、埼玉県を中心とした小売向けPB商品のほか、岩手県と青森県の学校給食牛乳を製造している。
創業当時から「生産だけでなく商品を届けたい」という強い酪農家の思いのもと、草農地や原乳を生産する牛舎が工場の近郊にある地元密着型の立地を生かし、新鮮な牛乳を届けてきた。同工場でつくられる低温殺菌牛乳は、安心・安全を徹底した高付加価値商品だ。
消費期限が短い低温殺菌牛乳を新鮮なうちに届けるため、深夜0時から充てんする。製品検査を含めた品質管理も全て外から見られる開放的な工場内部では、超高温瞬間殺菌と低温殺菌牛乳の双方を製造している。超高温瞬間殺菌とは120~150℃で1~3秒間加熱殺菌する方法で日本で販売している9割の牛乳はこの超高温殺菌によるもの。一方、低温殺菌牛乳は63~65℃で30分間加熱殺菌する方法で、温度管理が非常に難しい特徴がある。
低温殺菌牛乳は、あっさりとした口当たりで牛乳本来のおいしさを感じられ、「ワンフロアのなかでいかに人の動線を短くするかを考慮している」と中谷耕三工場長は語る。殺菌した生乳は、ポンプなどを介さずに、密閉したタンクから圧で押し出すようにして次の工程に移行させるなど、品質管理を徹底している。
乳製品では東北地方の量販向けに3連パックのヨーグルトや、歳暮や中元用のアイスクリームも製造している。「高原からの贈り物ヨーグルト」は、添加物を使用せず、ビフィズス菌とその栄養源となるオリゴ糖を配合し低脂肪で仕上げた。地元で馴染みのある「べこっこ」(=牛の意味)の名称で販売している商品もあり、広く人々に認知されている。
「奥中山高原アイスクリーム」は、カナディアンジャージー種のミルクを使ったコクのあるプレミアムな味わいが特長。
また、非遺伝子組換えの飼料だけで育てる「NON-GMO」(非遺伝子組み換え)による生産にも早くから着手し、現在取り組む5戸の酪農家に、年間およそ1千500万円を支援している。作り手や飼料内容、工場までもが見える安心・安全な製品づくりで、地域の酪農を支えている。
(つづく)