「沖縄コーヒープロジェクト」の理想と現実 発足4年目で初収穫を予定 「ネスカフェ」製品化も視野

 沖縄SV(エス・ファウ)やネスレ日本を含めた産学官連携で大規模な国産コーヒーの栽培を目指す「沖縄コーヒープロジェクト」が2019年に発足してから4年目を迎え、今冬から来春にかけて初収穫を予定する。

 24日発表会が開かれ、今後、取り組みを強化しつつ主に4つの段階を経て沖縄県産コーヒー豆やコーヒー製品を新たな特産品にしていく方向性を明らかにした。

 将来的には「ネスカフェ」ブランドでの製品化も視野に入れる。
 10年単位の中長期にわたる活動で、現時点で目標年度は定めていない。

 初収穫量は数千杯飲める程度の量を見込む。これを関係者で焙煎・抽出・試飲して豆の品質・性質を確かめ、まずは沖縄の土壌や気候に適した品種や栽培方法を確立していく。

 続くステップ2としては、沖縄現地でのコーヒー豆の収穫体験や試飲の機会を設ける。
 次に沖縄県内でのお土産販売などを予定し、最終的には全国に向けて幅広いチャネルでの商品販売の青写真を描く。

北部農林高等学校の作業の様子 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
北部農林高等学校の作業の様子

 プロジェクトの趣旨は、物流コストが足かせとなり価格競争力が低下している沖縄県農産物の課題解決にある。

 ネスレ日本の深谷龍彦社長兼CEOは「沖縄でコーヒーが大規模栽培できるようになれば、コーヒーは日本の他エリアではなかなかつくれないため物凄いビジネスになる。しかし現実はなかなか難しく、様々な困難に直面して1つ1つ解決している状態」と語る。

 プロジェクト発足後、農作業などの実務を担う沖縄SVが名護市の農地でコーヒーの苗木を移植・栽培を開始。以降 3 年間、地元住民や農家との連携を広げ、現在では沖縄本島と離島(石垣島、宮古島)の農地、沖縄県立北部農林高等学校、琉球大学の研究農園の合計 11 カ所で累計約 6500 本(4月末時点)のコーヒー苗木の植樹を終えた。

 この中で沖縄SVが直営する農園は2か所。発足後、これに7つの協力農家が加わり、現在、自治体には県外からコーヒー栽培のための移住の問い合わせが多く寄せられているという。

 こうした声に応えて協力農家を増やすためにもモデルの確立が求められ、沖縄SVの直営農園がその役割を担う。
 「コーヒーは沖縄の農家の方々でつくっていかれるものになる。沖縄SVで成功事例をつくり、たくさんの知見をため、手を挙げて下さった沖縄の農家の方々にフィードバッグしていく」と述べる。

琉球大学の農場・ハウス前の防風林 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
琉球大学の農場・ハウス前の防風林

 この考えのもと、ネスレ日本はサポートを強化。4月からネスレ日本飲料事業部テクニカル部の一色康平氏が沖縄に常駐し農業サポートやネスレグローバルとの橋渡し役を担う。

 ネスレが中南米・アフリカ・アジアの計15か国で行っている「ネスカフェプラン」では、ネスレが派遣する230人以上の農学者が10年から20年末の時点で累計毎年90万以上のコーヒー生産者に対するサポートを実施し20年末までに2億3500万本のコーヒーの苗木を提供。5月にはネスレグローバルの農学者が訪日し琉球大学で農業従事者30人を対象に講演を行った。

 常駐社員の役割について、高岡二郎飲料事業本部レギュラーソリュブルコーヒー&システムギフトボックスビジネス部部長は「ネスレは世界各地でのコーヒー栽培の経験があり、沖縄ならではの苗や栽培方法を見つけることが大事。農学者は日本語が不得手のため、常駐社員がパイプ役となり栽培方法などの検証をサポートしていく。農業の知識に加えてコミュニケーションも促進していく」と説明する。

名護市の直営農場、花が咲くコーヒーノキ - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
名護市の直営農場、花が咲くコーヒーノキ

 コーヒー製品化と全国販売を理想とする。

 中長期を見据えた現実的な目標としては、農業と観光を組み合わせたアグリツーリズムの実現を掲げる。

 深谷社長は「観光農園みたいな形態にすると、収穫量は一般販売よりも少なくて済み、コーヒーノキの本数も少なくて済む。コーヒーだけを売るのではなく、体験として販売すれば一杯分のコーヒー豆で3時間コース5000円と打ち出せるかもしれない。現実的にそういう形で収益化されることのほうが早いと思うが、観光農園がたくさんできてしまうと競争になるため、長期的には一般販売が次のステップとなる」との考えを明らかにする。

 このビジョンに立ちはだかる課題としては、沖縄の気候・土壌にあった品種の選定や栽培方法の確立に加えて、台風や強い日差しへの対策が挙げられる。

 この課題に対して、サッカー元日本代表で沖縄SV社長の高原直泰氏は「名護市の農園は海に近く防風林がない場所のため台風対策を必要とする環境的には一番難しい場所。一方、大宜味村の農園は山の中にあり非常によい環境だが、日差しが強く場所によっては対策をしっかり施していく」と語る。

 現在、複数のアラビカ種を様々な環境で栽培し生育状況をネスレや琉球大学とともに観察している。

大宜味村の直営農場 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
大宜味村の直営農場

 農業従事者の人手不足については「心配していない」(沖縄SV社長の高原直泰氏)とし人手よりも栽培地の確保に注力する。

 外部との協力関係では、名護市・琉球大学・北部農林高等学校に加えて、うるま市が新たに参画。うるま市内の耕作放棄地を活用した新農場開設に向けて7月から整地を開始する。

 中村正人うるま市長は「全国的にもそうだが、沖縄県では特にさとうきびの生産量が減少し耕作放棄地がだいぶ多くなっている。そういうところを何とか変えていきたい。コーヒーを活用した地域活性化は耕作放棄地が解消する手だてだと思っている」と期待を寄せる。

 新農場の農作業には、沖縄SVの選手・関係者のほか、福祉事業者のスタッフも従事する。

 新農場をはじめとした地元で栽培された農産物を提供するカフェも23年3月にオープン予定で「ネスレ日本さま、沖縄SVさまのご支援をいただきながら農福連携を行い、障害のある方にも働いてもらい、さらには新たな産業構造をつくっていく」と意欲をのぞかせる。

左から中村正人うるま市長、サッカー元日本代表で沖縄SV社長の高原直泰氏、ネスレ日本の深谷龍彦社長兼CEO、高岡二郎飲料事業本部レギュラーソリュブルコーヒー&システムギフトボックスビジネス部部長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
左から中村正人うるま市長、サッカー元日本代表で沖縄SV社長の高原直泰氏、ネスレ日本の深谷龍彦社長兼CEO、高岡二郎飲料事業本部レギュラーソリュブルコーヒー&システムギフトボックスビジネス部部長

 「沖縄コーヒープロジェクト」は「ネスカフェプラン」の一環ではあるものの、ネスレグローバルとしても初の試みであるという。

 深谷社長は「コーヒーを栽培している国に対して改善すべくサポートしている事例がほとんどで、沖縄のようにゼロから立ち上げる例は私が知る限り皆無」と指摘する。

 「ネスカフェプラン」による改善事例としては「ベトナムでは14年以降、灌漑技術の効率性が向上し70%の節水を実現し生産コストを15%低減。メキシコでは品種改良でコーヒー農園を改革し生産性が14年から50%向上した」と説明する。

 地球温暖化で気候変動が続くと2050年にはアラビカ種の栽培適地が15年比で50%にまで減少する「コーヒーの2050年問題」については「グローバルの知見が蓄積されている。フランスにコーヒーの苗木に特化した研究開発センターがあり、そこで様々な新しい苗木の開発や、1本の木から獲れるコーヒーチェリーを2~3割アップさせる取り組みを行っている」という。

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