「飲んでも酔いたくない」にどう応える? 缶チューハイ、低度数チャレンジ続々

この5年あまりでがらりと市場が変化した、缶チューハイなどのRTD酒類。コロナ禍による飲み方変化やビール類酒税の改正もあり、メーカー各社では広がるニーズに対応した新たな切り口の製品を次々と投入。なかでも、低~中度数アイテムの商品多様化が進んでいる。

コロナ禍以降の売場で目に見えて変わったのは、低度数化が急速に進んだことだ。

下のグラフでは、RTDの度数帯別シェア推移をPOSデータを元に示した(㈱マーチャンダイジング・オン RDS市場データ スーパー全国)。

コロナ前の19年には販売数量の41%を占めた度数8%以上の商品は、今年1~7月の段階で20%と半減。代わって低~中度数が80%にまで拡大している。

㈱マーチャンダイジング・オン RDS市場データ スーパー全国 / 収集店舗数6673店=24年5月時点 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
㈱マーチャンダイジング・オン RDS市場データ スーパー全国 / 収集店舗数6673店=24年5月時点

19年ごろにかけてブームが続いた、度数9%前後のいわゆるストロング系チューハイ。平日の帰宅後などに、短時間でコスパよく酔えることが支持された。

だが20年からのコロナ禍で家飲み時間が増えたのを契機に、逆に「あまり酔いたくない」「時間をかけて少しずつ飲みたい」といった意識が生活者の間に広がった。

短時間で酔ってしまうのは楽しくないし、むしろコスパが悪い。さらには酔うこと自体が生活の質を落とす、健康にもよくない――そんな考え方も若年層などの一部に浸透しつつあるようだ。

撤退進むストロング系 「3%」に熱視線

「発酵蒸留サワー」(宝酒造) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「発酵蒸留サワー」(宝酒造)

業界では、度数8%以上のRTDから大手が撤退する動きが今年に入り鮮明化。アサヒビール、サッポロビールがこうした方針を明言しているほか、主力ブランドに9%を品ぞろえするサントリー、キリンビールも開発の軸足を7%以下に移したとみられる。

さらに、より低度数に焦点を当てた開発も目立ってきた。

宝酒造が10日から発売した「発酵蒸留サワー」3品。

同社の調べでは「お酒を飲みたいけど酔いたくない」と感じる人が一定数いることが分かった。そこで同社の強みである焼酎技術を生かし、度数3%でも酒の飲みごたえや満足感が楽しめる缶チューハイとして開発した。

この度数帯の商品は従来も存在したものの、大半が女性や若年ユーザーを意識した甘いフレーバー。一方で「甘くない」を謳う商品は軒並み5%以上だった。「甘くない×低度数」という、市場の空白地帯を突いた商品として業界からも注目を集める。

「キリン 華よい」(キリンビール) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「キリン 華よい」(キリンビール)

またキリンビールは、同社初の低アルコールRTDブランド「キリン 華よい」を24日からリリースする。

同社によれば、お酒は飲めても普段家ではRTDを飲まない人が約3千万人いるといい、多くのユーザーが飲みすぎないよう気を付けている一方、お酒を気軽に楽しみたいニーズがあることも分かったという。

〈白桃スパークリング〉など3フレーバーを揃える「華よい」は度数3%。果実浸漬酒を隠し味に加えた、果実味とほどよいお酒感が特長だ。低度数でもこころが華やぐ解放感が楽しめる、軽やかな果実スパークリングとして訴求する。

暮らし方や働き方の多様化による価値観の変化から、生活者の間では適正飲酒への関心が高まる。そんななか、今年2月には厚生労働省が「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表。日々摂取する純アルコール量を健康のために低減することが呼びかけられた。

今のところガイドラインによる消費への目立った影響はみられないものの、こうした意識の浸透が今後さらに進むことは必至だ。

「お酒は飲んでも酔いたくない」「楽しく飲みたいけど健康でいたい」。酒類メーカーとして、そんな難題にどう応えるのか。知恵比べが始まった。