12月7日、東京駅11時18分発の「のぞみ343号」に石谷貴之さん、小坂田祐哉さん、西尾逸平さんの人気バリスタが乗車し、京都駅に到着するまでの約2時間、乗客52人にスペシャルティコーヒーをかわるがわる提供した。
これは、東海旅客鉄道(JR東海)が企画した「スペシャルティコーヒー新幹線」の一幕。
のぞみ号を1両単位で貸切りできる「貸切車両パッケージ」の一環で、同社社員が企画した点とスペシャルティコーヒーの提供という点で東海道新幹線史上初の試みとなった。
企画したのは赤塚由記さん。東海鉄道事業本部施設部管理課に所属し、普段は名古屋で在来線の人事を担当している。
“どんな新幹線を作りたいか”といった趣旨の社内公募に応募し、約80人の中から赤塚さんの案が選ばれた。
選定に関わった営業本部法人営業グループ(MICE担当)の秋山誠グループリーダーは選定理由について「“どうしても具現化したい”という提案者の情熱と、コーヒーや食べ物は新幹線と相性がよいと考えたため」と説明する。
プライベートでは人気バリスタの店に足しげく通うほど大のスペシャルティコーヒー好きという赤塚さんは、企画書にスペシャルティコーヒーへの思いのたけをぶつけた。
「スペシャルティコーヒーのおいしさを広めたいと思い、すぐに手を挙げた。知り合いからも“新幹線でスペシャルティコーヒーを飲みたい”とよく言われる。ただし、駅構内でのスペシャルティコーヒーの提供は抽出に時間を要し、お急ぎのお客様が多いため難しい。そこで新幹線の中で提供することを思いついた」と赤塚さんは振り返る。
企画が通ると、赤塚さんは直接、前出のバリスタ3人に協力を依頼し快諾を得たものの、課題が浮上。石谷さんが使用するエスプレッソマシンの設置などの問題が立ちはだかった。
「新幹線の電圧だけではエスプレッソマシンを動かせず、水回りの問題もあり、どのようにして具現化したらよいか分からなった」ことから、白羽の矢を立てたのはキーコーヒーの渋谷崇志ブランド開発営業部長。
「のぞみ」「ひかり」のグリーン車や11号車多目的室で「京都イノダコーヒ」のモバイルオーダーサービスを手掛けるJR東海リテイリング・プラスを通じて、同サービスで関わりを持つ渋谷部長に運営全般のサポートを依頼した。
協力した理由について、渋谷部長は「車内ワゴン販売をしていた過去からお付き合いのあるJR東海さまにお役立ちするとともに、スペシャリティコーヒー好きの方ともつながっていたい」と語る。
一方、JR東海の藤川恵司営業本部担当部長は「コーヒーであればプロのキーコーヒーさまといった具合に専門の方々と連携しながら、お客様に喜んでいただける企画を1つ1つ実現していきたい」と述べる。
電源などの技術的な課題はトーエイ工業の協力を得て解決した。
エスプレッソマシン「イーグル・ワン・プリマ」2機とグラインダー「ミトス MYG75」1機を新幹線に搬入。エスプレッソマシンを乗せる演台は強化段ボールを活用して設置し、数回のテストを経て本番に臨んだ。
新幹線の運行は通常どおり。
エスプレッソマシンの設置やスペシャリティコーヒーの提供に前例がないことから、打合せを重ね、当日は予めホームに準備した機材等を迅速に積み込み、乗客を迎え入れた。
社員発案の企画であることから外部に委託せずに自前で運営。当日は約10人の社員が汗を流した。
イベントで、一人一人のエスプレッソ入りカップにスチームミルクを注ぎラテアートに仕立てていったのは「ジャパンバリスタチャンピオンシップ」2017年・19年・23年優勝者の石谷貴之さん。Abu(アブ)農園のパナマゲイシャを使用し、グラインダーで挽くところから手掛けた。
西尾逸平さんはドリップを実演し、水出し・ミルクブリュー・ホットの3つの異なる形態で乗客に提供したコロンビアのUBA Orange(ウバ オレンジ)などについて説明。
エチオピア産2種・ケニア産・パナマ産の4種類を提供したのは小坂田祐哉さん。スペシャルティコーヒーについて熱弁を振るった。
3人のバリスタによるトークショーも行われ、乗客には記念品として特別刻印入りのカッピングスプーンやキーコーヒーの「トアルコトラジャ」などが手渡された。
なお、「スペシャルティコーヒー新幹線」の申込はジェイアール東海ツアーズのサイトによって行われ、旅行代金は2万6000円に設定された。