前向きな活用に関係者ら期待
不適切な飲酒によるアルコール健康障害の防止に向け、厚生労働省は「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の策定を進めている。このほど専門家による議論を経てまとめた案を公表し、12月29日までパブリックコメントを募集中だ。施行は24年3月下旬予定。ただ適切な飲酒量に関する具体的な数値が示されることで、ネガティブに偏った情報の独り歩きにもなりかねない。酒類業界からは懸念の声が上がっている。
ガイドライン案では、過度な飲酒によって疾病発症や行動面のリスクが高まることを指摘。年齢や性別、体質の違いによって異なるアルコールの影響の受けやすさを踏まえたうえで「自分に合った飲酒量を決めることが大切」と説明する。
その際の基準として着目するのが「純アルコール量」。たとえば度数5%のビール500㎖缶1本であれば、500×0.05=25㎖のアルコールが含まれる。これに比重0.8をかけた値の20gが純アルコール量だ。
そして生活習慣病のリスクを高める飲酒量として示されるのが「1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上」との数値だ。「飲酒量が少ないほどリスクは少なくなるという報告もあり、飲酒量をできる限り少なくすることが重要」とも指摘する。
添付された参考資料では飲酒量と疾病別のリスクが示され、たとえば高血圧は「0g<大」。少しでも飲酒すれば発症リスクが高まることを意味する。
ひと頃に比べて需要が縮小したストロング系チューハイだが、度数9%の500㎖缶も一部ヘビーユーザーから根強く愛好されている。純アルコール量は36g。女性なら1本で1日当たり基準値を軽くオーバーし、男性の基準値にも迫る。ビールなら500㎖缶2本、ウイスキーはダブル2杯、日本酒は2合でほぼこの量に達する。
もとより適正飲酒推進には力を入れてきた酒類業界でも、こうした数値が独り歩きすることを不安視する声が出ている。
「WHOの動きやアルコール規制の流れのなかで、酒類業界にとってもっと厳しい内容になるリスクがあると懸念していた。できる限り客観的なデータに基づいた形での発表になったことについては、一定の評価をしている」と語るのはアサヒビールの松山一雄社長(12月15日の会見で)。
そのうえで「ただ男性40g、女性20gということが数字として出た。また純アルコール摂取量とがんの発生リスクとの関係についての報告が添付されている。全部しっかり読めば、そういう報告もあるというレベル感のものではあるのだが、あたかもそれを超えるとすぐリスクが高まるように一般消費者に誤解されてしまうと危険だ」と懸念を示す。
大手卸幹部からは「この内容のままガイドラインが出てしまうと、酒類業界にとって大きな需要減少につながるのではと危惧している。一番影響が出ると思うのは日本酒。割っておいしく飲めるようなものではなく、小さい酒蔵が淘汰されるきっかけになりかねない。各地の文化や伝統も一緒に失われる懸念がある」とする声も上がっている。
一方で「必ずしもネガティブなものとして捉えるのではなく、むしろうまくお酒をたしなむことで、より豊かな人生につなげられるというメッセージも発信したい。酒類メーカーとしてスマートドリンキングを推進してポジティブなアクションにつなげたほうが、より多くの賛同を得られるだろう。ライフスタイルのなかに定着できれば、社会全体にとってプラスになる」(アサヒ松山氏)との見方も。
今回の動きを前向きに活用することで、業界にとってのメリットを生み出す発想が必要になりそうだ。