日本商品の越境ECを手がけるInagoraホールディングス(インアゴーラ、本社・東京都新宿区)は、中国で日本酒の市場開拓に注力している。オンライン上の自社店舗では「獺祭」「酔鯨」「本紀土」などの銘柄を取り扱い、現地のニーズに即した情報発信や飲食店でのイベントなどを積極的に展開。本紙の取材に翁永飆(オウ・エイヒョウ)CEOは「中国で日本酒の需要は増えているが、まだまだニッチな存在。各酒蔵の販売をバックアップしながら市場の拡大も図っていきたい」と語った。
ライブコマースで先行
中国の消費者向けに日本商品特化型の越境ECプラットフォーム「豌豆(ワンドウ)」を運営し、現地大手ECサイト「天猫(Tmall)」「天猫国際(Tmall Global)」などにも出店する。日本酒の販売は、旭酒造「獺祭」との縁で18年にスタート。
現在は「酔鯨」「花の舞」「上川大雪」「本紀土」「天賦」「臥龍梅」「WAKAZE」「若鶴」などを加えた約10銘柄を主力に取り扱い、中国向けの日本酒市場で一定のポジションを築いている。
同社はオンライン・オフラインの両方を活用したマーケティングとブランディングが強みだ。特に中国で人気のショート動画とEC機能を組み合わせたライブコマースで先行。中国版TikTokの「Douyin(ドウイン)」に自社店舗を置き、100万人規模のフォロワーを抱える「Key Opinion Leader」(KOL)と多数提携、的確な情報発信と話題喚起で購買意欲を後押しする。
今年1~6月には在日KOLの東京tatata氏が「酔鯨」のライブコマースを23回配信。毎週末の夕方から深夜にかけて実施したところ、PBの純米大吟醸「楽」は期間中の販売実績が約8千300万円に達したという。
翁CEOは「新しいお客様との接点作りに有効。日本酒に関心がない方にもアプローチできる」と手応えを話す。
中華料理への浸透図る
オフラインでは中華料理と日本酒のペアリング提案に注力。すでに約500店舗の飲食店を開拓しているが、コロナ禍が落ち着いたことから今年3月には上海と北京の中華レストランでペアリング体験できるイベントを実施。「日本酒は海鮮食材との相性が抜群に良い」(翁CEO)ことをアピールするため期間限定で海老、イシモチ、しらすなどを使ったオリジナルメニューを提供、好評だった。
翁CEOは「中国で日本酒の市場は約250億円とされるが、他の酒類は白酒が約11兆8千億円、ワインが約1兆200億円と圧倒的な差がある」とし、「逆に考えれば成長の余地は大きい。まずは中華料理にも合うことを浸透させたい」と展望する。
一方、日本酒を現地系の「Ole」など高級スーパーにも広く展開。店頭で高付加価値製品を直接アピールするとともに、「近くに店舗があればライブコマースで気になった商品をすぐ買いに行ける」との狙いもある。
日中両国の懸け橋に
中国出身の翁CEOは来日して35年が経過。00年に伊藤忠商事から独立し、14年に自身5度目の創業となるインアゴーラを設立した。日中双方の事情に精通しているからこそ「中国の大きなマーケットを舞台に両国の懸け橋になるビジネスを展開したい」との想いを持つ。
「日本酒事業はこれまで各酒蔵と二人三脚で販売を伸ばしてきた。引き続き中国の方々に日本酒を知って、飲んで、ファンになってもらえるように」と長期的な視点で取り組む。