新製品戦略に異変あり 大手「優先上位は価格改定」

コロナ禍からの回復の兆しが見え、新たなステージに突入した食品業界。例年だと、この時期は春夏商戦に向けて新製品が過熱し、新たなサービスも登場するが、今年はやや様相が異なっている。今のところ新製品戦線において消費トレンドを牽引するような商品は少なく、静かな商戦入りとなっている。

ブランド価値向上が中心テーマに

様々なコストアップが重なり、苦境に立たされている食品メーカー。昨年来、原材料や包装資材、物流費の高騰のほか円安も重なり、ほぼ全ての分野の食品が値上げされた。「今まで3度値上げしたが、それでも減益」と厳しい実情を嘆くメーカーもある。値上げによる消費者離れを防ごうと、新たな商品開発に知恵を絞りたいところだが、「優先上位は価格改定」と大手メーカー。今春に向けて、第2弾、第3弾の値上げを検討している企業にとっても、新製品は二の次と慎重な構えをみせている。値上げした品目も、単純値上げは避け、品揃え強化や容器改良等の工夫により、何とか需要減をカバーしたい目論見が目立つ。新製品は少ないが、ブランドを活かしたリニューアル商品が多いのもその表れだ。コストアップの逆境をはねのけ、商品の魅力を高めようとメーカーの試行錯誤が続いている。

このほど開かれた大手卸の食品展示会において営業担当者は、「今春はリニューアル品はあるが、新製品は少ない。価格改定のタイミングだけに、それを優先している」(調味料メーカー)、「今年の新製品は少ない。その分、包装資材を変更するなどリニューアル品でシリーズを強化しており、流通の評価は高い」(調味料メーカー)や、「お客様が機能を選択する段階にきており、機能の奪い合いで厳しい」(乳業メーカー)とし、「新たな機能性によりアイテムを増やしながらブランド拡大を目指す」などコメント。

一方、「値段では需要喚起が図れないため、新製品で喚起したい」と語る調味料会社や、「オムライスの日本一を決める大規模イベント『オムライススタジアム』で需要を盛り上げることに力を注ぐ」(カゴメ)などの動きもある。また、味の素AGFの竹内秀樹社長は、「食品全体では新製品開発はやや薄いようだが、当社では強いジャンルにゾーンを絞り、ここでの強み活かすことに注力する」など、対応はまちまちのようだ。

昨年、食品業界で最大のヒット商品となった「Yakult1000/Y1000」。睡眠改善効果により爆発的に売れた。今春は各社から睡眠改善やストレス低減を狙った新製品が登場している。だがコロナ禍で注目を集めた「免疫力」や「タンパク質」も、あらゆるメーカーが訴求したことで需要は一巡したみる向きもあり、エビデンス訴求の難しさを物語っている。機能性による付加価値で市場を牽引してきたヨーグルトも、「エビデンス同士の衝突により、需要を支えてきた年配層が離反した」と大手乳業メーカー。今後は新たな機能が求められている。

昨年来、各社から次々と発売されたプラントベースフード(PDF)。当初は健康志向や環境保護、食糧問題などの社会課題に対する生活者の意識の高まりから期待されたが、「話題先行型の商品にとどまっている」と大手卸。オーツミルクも「面は拡がったが、お客様にオーツの素材自体を知ってもらうために苦労している」と言う。

商品開発において、昨年はZ世代の考え方を反映させたSNSの影響力が目立ったが、早くも〝SNS疲れ〝という言葉も浮上。「流行に流されやすいZ世代発のトレンドはあてにならない」との声も聞かれている。

いずれにしても今年の製品戦略は、定番ブランドに対する信頼感や安心感を改めて見直し、ブランド力を生かしながら、健康訴求など時代の変化に合わせたブランド価値の向上が主なテーマになりそうだ。