オフィス街でエスプレッソとコーヒー豆の販売に挑む堀口珈琲 「人の流れがないのであれば質高めて直球勝負」若林社長が意欲

 スペシャルティコーヒー専門店でペーパードリップによるコーヒーの提供を基本としてきた堀口珈琲が新業態の店舗でエスプレッソとコーヒー豆の販売に挑む。

 新業態の店舗は、5月12日にリニューアルオープンした「Otemachi One店」(東京都千代田区)。大手町のオフィス街にある複合施設「Otemachi One」1階に位置し、同施設には三井物産新本社やフォーシーズンズホテル東京大手町などが入居している。

 2020年6月の同施設オープン当初、堀口珈琲が想定していたのは、ごった返すオフィスワーカー。ドリップマシン「セラフィム」やブルーワーを導入してクイックにテイクアウトコーヒーを提供するTO GO(トゥーゴー)の業態に挑むべく準備を進めていた。

堀口珈琲の若林恭史(たかし)社長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
堀口珈琲の若林恭史(たかし)社長

 そうした中コロナ禍に見舞われ、まず春先に予定していた同施設の開業が延期。6月のオープン以降も人出はまばらで「“これはダメだ”と判断しリニューアルのプランを考えはじめた」と語るのは20年7月から現職の若林恭史(たかし)社長。社長就任以前から役員として改革の旗振り役を務めていた。

 コロナ禍の環境変化を受けてコンセプトを練り直したところ「人の流れがないのであれば、もう少し質を高めて、当社が得意とするコーヒーの楽しさや多様性をお伝えする直球勝負の店舗にしよう」と改装という結論に達した。

 改装で直球勝負するのは、エスプレッソとコーヒー豆の販売。

 エスプレッソの提供はイタリアのバールを意識。店舗デザインをアアト一級建築士事務所の高塚章夫代表に依頼し、真鍮製の大壁面と大谷石の店頭カウンターを活かし、バーカウンターには無垢材を使用した。

エスプレッソ抽出の様子 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
エスプレッソ抽出の様子

 「朝、新聞を読みながらショット飲みして下さる方がいたら嬉しい。そんなイメージを思い描いてやっていくことが物凄く大事。エスプレッソマシンは割とよくみかけるが基本的には画一的。ここではスペシャルティコーヒーの多種多様な味わいのコーヒーをエスプレッソとして提供していく。多様な味わいをペーパードリップだけで楽しむのはもったいない」と述べる。

 堀口珈琲ではブレンドと焙煎を重視。

 店頭では「高品質で個性豊かな素材を使い繊細な感覚と大胆な発想で作った9種類のブレンドを用意している」とし1~9と番号が進むにつれ深煎りになっている。

 シングルオリジンも品揃えし、多彩な商品をエスプレッソでもペーパードリップでも楽しめるようになっている。

カーチスのドリップマシン「セラフィム」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
カーチスのドリップマシン「セラフィム」

 この多彩なメニューが奏功してリニューアルオープン後の滑り出しは上々という。
 「1日に何度も利用して下さるお客様や口コミで来店客の広がりがあり、来店客数は前年比1.5倍で推移している」と説明する。

 オフィス街の立地でも店舗を目指して来店してもらうべく接客にも磨きをかける。

 「無垢材のバーカウンターに見合うようにサービスするスタッフも恰好をつけないといけない。美しい動作でサービスしないと様にならない。コーヒー豆の説明も端的にわかりやすく、コーヒーに詳しいお客様やそうでないお客様にあわせて行っていく」考えだ。

 コーヒー豆の販売は、縁に真鍮を使用したショーケースを前面に押し出してアピールしている。

ショーケースに入れてコーヒー豆の販売を強化。大谷石の店頭カウンターも特徴 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
ショーケースに入れてコーヒー豆の販売を強化。大谷石の店頭カウンターも特徴

 これには「カフェや喫茶店でコーヒー豆を売るのはかなり難しい。当社はロースターなのでそのノウハウを持ち合わせている。リニューアル前は豆を売ることを意識していなかったため脇の棚に並べていたが、棚の陳列ではまず売れない」との見方が反映されている。

 堀口珈琲は1990年に現会長の堀口俊英氏が東京・世田谷で創業。
 96年に「世田谷店」の場所に移転し業務用卸の業容拡大に伴い99年に2号店の「狛江店」(東京都狛江市)を開店。04年に「狛江店」を現在の場所に移転し、08年に「上原店」(東京都渋谷区)をオープンした。

 若林社長が入社したのは05年で、10年以降、改革に着手していく。13年にはブランディングを専門とするデザイン会社・エイトブランディングデザインの協力を得てリブランディングを実施した。

 19年に新たな焙煎所として「横浜ロースタリー」の稼働を開始した。品質・衛生管理・生産量と商品をつくる体制を再整備した上でECの充実化に着手。20年にはブランディング部を新設してコーポレートサイトからの発信を強化した。

 「一般のお客様に対する堀口珈琲の認知は低く、西日本では皆無に等しいと思っている。したがって、まずは知っていただくことが大事で実店舗以外に手に取っていただく環境を整えようとコーポレートサイトとECを整備した」と振り返る。

 このことが奏功し、コロナ禍で業務用の売上げが激減する中、ECでの販売が下支えした。「店舗も影響を受けたが物販が伸びたことで“いってこい”で済んだ」。

 現在は、業務用が回復しつつあり、業務用・店舗・ECの売上比率は1対1対1となっている。

 今後については「堀口珈琲をきちんと体験できる場所を整備しておくことが大事。コロナが収束してからでは遅い。業務用のお客様へのサポートも迅速に行う。お客様と一緒になってそのご商売を守るフェーズから、新規出店の支援という攻めのステージになっている」と意欲をのぞかせる。