社長の交代とともに、24時間営業に関して「柔軟な対応」への方針転換を発表したセブン―イレブン・ジャパン。この間の一連の問題で強まった世論の風当たりに対し、トップチェーンとしてひとまずの回答を示した。転機を迎えるCVS業界の在り方やFCビジネスの今後にも一石を投じることになりそうだ。
4日の会見でセブン&アイHDの井阪隆一社長は、セブン―イレブンのビジネスモデルを再点検し、原則一律に適用してきた24時間営業についても、個店の事情に応じて柔軟な対応に改める方針を明らかにした。
一方で「24時間営業はビジネスモデルの根幹。拙速に変えることは加盟店オーナーの生活基盤を脅かし、取引先との信頼関係やブランドを毀損するリスクがある」として、先月から一部店舗で実施している時短営業実験の検証結果も精査した上で慎重に判断する姿勢を強調。希望に応じて24時間営業以外への契約変更も検討するものの、オーナーによる選択制の導入は否定した。
セブン&アイHD副社長の永松文彦氏が8日付でセブン―イレブン社長に、古屋一樹社長は取締役会長に就任する。
一連の問題の原因について井阪氏は「(現場やオーナーとの)コミュニケーションのパイプに目詰まりがあった」ためと説明。「(永松氏は)人事・教育・労務管理に精通し、社外への出向経験もあることから、社内の問題を客観的に見られる。加盟店オーナーの悩みに応えるとともに、社員、現場の声を吸い上げられる最適な資質を有している」として、会長としてバックアップする古屋氏との二人三脚で課題解決に当たることがベストな体制と判断したことを強調した。
永松氏は「従来のワンパッケージのビジネスモデルでは対応しきれなくなってしまったのも事実。よりきめ細かく個店の経営環境に踏み込み、商圏に合わせた品揃え、サービス、営業時間で柔軟な対応を図っていきたい」として、加盟店オーナーとの緊密な意思疎通を図っていく考えを示した。
【略歴】永松文彦氏(ながまつ・ふみひこ)1980年東大経済学部卒、セブン―イレブン・ジャパン入社。執行役員業務本部長、ニッセンHD副社長、セブン&アイHD執行役員人事企画本部長などを歴任。今年3月にセブン&アイHD取締役執行役員副社長就任。
〈視点〉現場に寄り添う姿勢こそ
セブン―イレブンは加盟店の営業時間について、一律24時間ではなく「柔軟な対応」に改める方針を示した。この間の加盟店オーナーとの軋轢に関してセブン&アイHDの井阪社長は「コミュニケーションのパイプに目詰まりがあった」ことが原因との認識を示す。
問題がクローズアップされた端緒である東大阪の加盟店の一件では、夫婦で店舗を営むオーナーが妻を亡くし、過労死寸前に追い込まれるまで店舗に立ち続けた。そんなオーナーに対し、当初は契約を楯に24時間営業の継続を迫った本部側の対応が批判されたのだった。昨年2月の福井豪雪時にも、時短営業を求めたオーナーに対して同様の対応があったことが報じられている。
これらは単にコミュニケーションの問題で片付けられるのか。24時間営業はCVSのビジネスモデルの根幹であるとともに、現代の生活に欠かせない社会インフラの大前提であることは間違いない。しかしそれを当然視するあまり、本部や現場の社員に驕りが蔓延していなかったか。
新社長に就任する永松氏は、約30年前に当時の16時間営業店を24時間営業に切り替えた際に、売上げが約2割伸びたとして「24時間」の意義を強調する。だが換言すれば、営業時間を1.5倍に延ばしても売上げは1.2倍にしかならなかったということだ。深夜は客が少ないため当然だが、売上げが多少なりとも増えれば本部に入るチャージも増える。かさむ人件費や廃棄ロスを負担するのは基本的に加盟店であり、本部が損をすることはない。
今回の方針見直しに当たっても、同社側は「拙速に変えることは加盟店オーナーの生活基盤を脅かす」(井阪氏)と、あくまでも“オーナーのため”との立場を前面に慎重姿勢を崩さない。現時点で時短化を希望している加盟店は96店と全体の0・5%程度だというが、その背景に希望を言い出せないオーナーが多数いる可能性についても想像は及んでいるだろうか。
経営陣とオーナーとの直接コミュニケーションに意欲を示す永松新社長には、ぜひとも現場の思いに寄り添った舵取りを期待したい。