キンレイの冷凍具付き麺「お水がいらない」シリーズが販売好調だ。2010年に立ち上げ、昨24年までに累計2億食以上を販売している。その原動力は、鍋で温めるだけの簡便性のみならず、「とにかくおいしいものをつくる」ことに情熱を傾け続けてきた同社のこだわりがある。直近は看板商品「同 鍋焼うどん」をブラッシュアップ。自社工場に削り節機を導入し、よりフレッシュな味わいや香りが感じられるだしに進化させた。麺類専業メーカーでは異例ともいえる取り組みだが、白潟昌彦社長のもとチャレンジを開始。「外食の一流専門店から学んだ。さらなるおいしさを追求していきたい」と意気込む。
■「一流専門店に学ぶ」
上期(4~9月)の同社売上高は前年クリア。業態別にみると、「お水がいらない」シリーズを主力に展開する量販店ルートの伸びが高かった。前年同期は有名店「同 天下一品」とのコラボ商品がヒットし2ケタ増と高水準だったが、今期も「同 鍋焼うどん」を中心に前年並みで推移。「50周年大感謝祭」と銘打った同社最大級のプレゼントキャンペーン(期間:8月19日~26年4月30日)でもバックアップしている。

25年8月、「お水がいらない 鍋焼うどん」をリニューアル発売した。最大のポイントは、筑波工場と大阪工場にかつお節などの節を削る新設備を導入し、だしの風味向上を実現したことだ。麺類の専業メーカーが節を自社で削ることは非常に珍しい。
白潟社長は「われわれは冷凍麺専業メーカーとして『専門店を超える専門店になる』ことを目指している。削り節をよりフレッシュな状態で使用できる効果は大きい。原材料の情報に踏み込み、削り方のノウハウを積み、さらにだしのおいしさを追求できるようになった」と期待を寄せる。
設備導入のキッカケは7年前、白潟社長が自身の高校の卒業名簿で見つけた広告欄にある。同窓生の医者や弁護士などの情報に交じり、後輩に削り節機械メーカーの経営者がいることを知った。話を聞けばミシュランの星を取ったレストラン店舗にも小型の機械を納めているという。
「一流の料理人が採用するからには必ずワンランク上の価値があると想像した。レストランでは超薄削りにしたかつお節を料理の最後に添え、香りを引き立てたりしているようだ。われわれもまずは小型の機械を購入し、開発メンバーがテストを始めた」(白潟社長)。
その後、コロナ下における「お水がいらない」シリーズの需要急増で新商品開発の停滞を余儀なくされたが、約2年前から再び削り節の研究・開発を本格化。相応の品質向上が見込めると判断し、工場に技術導入することを決断した。
当面、削り節機は「鍋焼うどん」のだし専用で使用する。今後について、白潟社長は「まずわれわれが機械を使いこなせるようになることが大切。その上で将来は和だしを使ったラーメンなどにも活用できれば」と展望した。
■「だしの作り置きはしない」
「お水がいらない 鍋焼うどん」のだしにはもう一つ大きな秘密がある。それは作り置きを一切しないことだ。工場で製造当日に使用する予定の量だけを製造して急速冷凍するという。かつお節をはじめとする3種の節、昆布、椎茸などで熱々の白だしを作り、それに醤油やみりんを合わせ、さらに枕崎産の追い鰹で香り高く仕上げる。
白潟社長は「こだわりのうどん専門店はだしを作り置きしない。それを当社の工場でも踏襲している」と胸を張る。
ただし、14年に親会社の月桂冠から出向してきた際、工場の現場を見て「(当時の自身は)キンレイが効率度外視でモノづくりしていることに驚いた。もっと効率化できるのではないかと思った」と冗談交じりに振り返る。

そんな同社の原点は半世紀前、一流の料理人を招へいしてメニューを開発し、レストランの味を冷凍して一般家庭に宅配するという、当時としては画期的な新ビジネスにある。「とにかくおいしいものを届けたい」との想いから、シチューや八宝菜など幅広く展開し、中には利益度外視の商品も多かったという。
そんな中、いまに続く三層構造の「鍋焼うどん」が1975年に誕生。当時は、関西風のだしに、麺は讃岐うどんのようなコシを追求した。「創業時から専門店の製法を学んだと聞いている。モノづくりに対する志の高い考え方は、われわれにも脈々と受け継がれている」(白潟社長)。
