今春からサッポロホールディングス、サッポロビール両社の社長に就任した時松浩氏。持株会社体制への移行後、グループのトップが事業会社の社長を兼務するのは初めてだ。来年には酒税改正の最終段階が控えるなか、風雲急を告げるビール業界。重要局面をどう迎え撃つのか。
ビール社とあえて兼務 変革へ一体でガバナンス推進
「不動産事業に外部資本の導入を進め、酒類と向き合ってきちんと成長させる。それを実行に移すのが私の役割だ」。
4月25日の会見で、そう抱負を語った。
昨秋から提案を募集している不動産事業への外部資本導入には、年内にも結論を出す。本社ビルが所在する「恵比寿ガーデンプレイス」を保有するサッポロ不動産開発は非子会社化する方向。これにより得られる資金を中核の酒類事業に投資することで、成長を加速させる。
来年7月をめどに、事業持株会社体制に移行する計画だ。
「これからの1年半、それぞれのガバナンスで進めるより、(HDとビール社のトップを)兼務したほうが将来に向けて意味があると考えた」。
来年10月には、ビール類の酒税が完全に統一される。20、23年に続き3回目の減税となる狭義ビールに追い風が吹くなか、各社ともマーケティングに力がこもる。
「酒税改正を起点に、強みの狭義ビールでお客様価値を向上させる。(発泡酒など)エコノミーレンジを軽視するわけではないが、そこにリソースを分散させるよりは、消費二極化が強まるなかでプレミアムの価値を体感いただくことのほうが、顧客にとってもわれわれにとってもブランド価値を高めることにつながる」。
10年以上にわたる異例の成長が続く主力「黒ラベル」、昨年から東京・恵比寿に開業した体験型ブルワリーが好評の「ヱビス」。二枚看板に、ますます磨きをかける。
「体験の場を作り、モノよりも体験でビールの価値を上げる。他社のようにオールブランニューの商品を出すのではなく、基軸ブランドの情報鮮度を上げていくのがわれわれのやり方だ」。
酒類と不動産の30年 舵を切り直す
一方、アルコール問題への関心が世界的に高まるなか、ノンアルや低アル商品への取り組みは他社に比べてまだ不十分だと認める。
「ノンアル市場はこの10年で倍近い伸び。低アル化の流れも着実に進んでいる。単純に商品を発売するということだけでなく、価値創造も含めてチャレンジしたい」。
グループのポッカサッポロフード&ビバレッジとのシナジー創出も図りながら、開発に取り組む考えだという。
「ここ(恵比寿ガーデンプレイス)ができて31年。バブルがはじけて不動産で収益を上げられなかった時期には、それが酒類への投資の制約になったのも事実。一方で酒類の調子が悪いときには、不動産が基盤を作った。良くも悪くも補完関係にあったが、そこをオフバランス化する」。
90年代にグループ全体として切った舵を、もう一度切り直す覚悟だ。
「自分たちのポテンシャルを極限まで追い求めないと、単純に不動産が抜けただけになる。コペルニクス的な発想の転換が必要。これまでの三十数年を踏まえ、覚悟をもって酒類事業の成長を実現させる。それをリードする役目を果たしたい」。
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