北陸3県の頂点に立つ米菓「ビーバー」が破竹の勢い 他社から承継した“知る人ぞ知る”ブランドに当時26歳の社長が光 世界を展望

 北陸製菓(石川県金沢市)が手掛ける米菓「ビーバー」が破竹の勢いとなっている。

 「ビーバー」は1970年に発売開始された揚げあられ。当時開催していた大阪万博のカナダ館で展示されていたビーバー人形の歯と揚げあられ2本並べた形が似ていたことから「ビーバー」と命名された。

 開発したのは福富屋製菓。その後、福富屋製菓の菓子製造部門が独立して設立された福屋製菓に引き継がれたものの、福屋製菓は2005年に「ビーバーカレー味」を発売した後、2013年に事業を停止して自己破産してしまった。

 北陸製菓は2014年に「ビーバー」を承継。そこから6年経った発売50周年の2020年に開花する。

 その立役者は2018年から現職の髙﨑憲親社長(32)。

「ビーバー」のキャラクターと髙﨑憲親社長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「ビーバー」のキャラクターと髙﨑憲親社長

 26歳で社長に就任すると「ビーバー」に全集中する方針を掲げる。この年、北陸製菓は創立100周年の節目の年だった。

 「『ビーバー』は地元で愛されてはいたものの一部の根強いファンに支えられていた傾向にあった。これを北陸のソウルフードと呼ばれるように北陸で圧倒的に売れるブランドに育て上げ、次に全国や世界に届けていきたいと考えた」と髙﨑社長は振り返る。

 北陸製菓の祖業は、石川県産のもち米を原料にした米菓(あられ)だが、社長就任時の売上の屋台骨は、ビスケットやカンパンだった。

 そうした中で「ビーバー」の成長プロジェクトを立ち上げ、経営資源の8割ほどを「ビーバー」に注ぎ込むことを決断する。

「ビーバー」は1970年に発売開始された揚げあられ - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「ビーバー」は1970年に発売開始された揚げあられ

 「ビーバー」のキャラクターに成長のポテンシャルを見込む。

 「最初からパッケージにキャラクターをデザインして残して下さったことは非常にありがたいことだと思っている。キャラクターは小さなお子様からご高齢の方まで親しみを持っていただける共通言語であり世界に打って出る際にも活用できる」と語る。

 キャラクターを前面に押し出すことで、お菓子を超えて笑顔を届けていくことを志向する。

 「笑顔をお届けうることは、当社の経営理念“一人でも多くのお客様に笑顔を届けます”にも合致する。お菓子だけに留めるつもりはなく『ビーバー』には無限の可能性を感じている」と力を込める。

キャラクターを立たせてSNSで発信するなど“空中戦”を展開する傍ら、売場では社員がぬいぐるみやお面を配るなどして提案を強化していったところ徐々に売上が伸長した。

NBA・八村塁選手の追い風が吹く - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
NBA・八村塁選手の追い風が吹く

 プロジェクト始動から間もなくして強力な追い風が吹く。

 2019年7月、NBA・八村塁選手からお裾分けされた「白えびビーバー」をチームメートが絶賛する動画がSNSで拡散されると大ヒット。供給が追いつかず直営店や北陸3県のスーパーでは入荷待ちの状態がしばらく続いた。

 「八村選手のお陰でブームになりSNSでは賛否両論で物凄い量の情報が飛び交った。社内では“熱狂”と言っているが、この熱狂の状態を作っていくことこそが全国や世界に届けていくのに最大の近道だと感じた」という。

 「白えびビーバー」は、石川県・富山県・福井県の北陸3県での「ビーバー」の地位を確立すべく開発された北陸限定商品。ブームの余波で、北陸3県以外からも引き合いが寄せられ、岐路に立たされる。

 3県以外からの出荷要請に対しては「ブームを機に全国に打って出る選択肢もあったが、まずは北陸3県で圧倒的一番に立たなければいけないと考え、北陸物産店など一部を除き、基本、北陸3県でしか売らないという姿勢を貫いた」。

この判断により熱狂を維持。ブームが起こった2019年以降、「ビーバー」の売上は反動減に陥ることなく右肩上がりに推移する。

「白えびビーバー」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「白えびビーバー」

 北陸製菓の前期(8月期)売上高は2018年度比で2ケタ増を記録。「ビーバー」ブランドはその間、売上規模を数十倍に拡大し、売上構成比は主力のビスケットと拮抗するまでに高まる。

 2020年、「白えびビーバー」が北陸3県の米菓売上No.1に浮上。以降、3県でトップの地位を固め今年、全国拡大に向けて布石を打つ。

 3月、北陸新幹線の金沢‐敦賀間開業を記念してJR西日本グループのジェイアールサービスネット金沢と連携して「JR西日本限定ビーバー」の発売を開始。

 5月16日から7月1日にかけては、東京おかしランド(東京都千代田区)に期間限定ショップ「ぶち揚げ☆ビーバーランドTOKYO」をオープンした。

東京おかしランドで販売したプレミアム限定商品 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
東京おかしランドで販売したプレミアム限定商品

 東京おかしランドへの出店については「北陸以外の方や『ビーバー』をご存知でない方にも『ビーバー』に触れていただき、売れ行きも順調だった」と総括する。

 そのほか人気キャラクターや人気アパレルとのコラボも矢継ぎ早に展開している。

 コラボの実施にあたっては迅速さを重視。

 その原動力は、髙﨑社長が醸成してきた仕事を先送りにしない社風にある。

 「現在進めているコラボは2か月で何とか間に合わせようとしている。当社には“明日会議があるからこの案件は明日でいい”といった考え方はあまりない。LINEなどで数分の間に決済し稟議書が後手に回ることも多い。来週に持ち越すような案件も数分で決めたりしているので、同じ時間軸でみると、通常の何十倍もの仕事量がこなせている気がする」と説明する。

「ふぐビーバー」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「ふぐビーバー」

 多方面でのコラボ展開に伴いラインアップも増加。現在、「ビーバー」「白えびビーバー」「カレービーバー」「カニビーバー」「あおさ塩ビーバー」の5品を定番とし、定番プラス2品の幅でコラボ商品や限定商品に対応している。

 期間限定の「ふぐビーバー」は、金沢大学能登海洋水産センターで養殖した能登産のとらふぐを使用している。

 「『ふぐビーバー』の発売は能登半島地震発生前から進行していた企画ではあるが、震災後に急遽予定を早めて発売した。売上の数パーセントやカンパンなどの備蓄にも適した商品を復興支援に寄付させていただいているが、我々はどちらかというと心の支えの一助になることを考えてバスケ大会やイベントに前向きに協賛させていただいている」という。

現工場 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
現工場

 今後も北陸3県での活動を軸足にさらなる成長を目指していく。当面のベンチマークは売上高100億円規模。

 拡大に向け、生産体制については本社と工場の金沢市内での移転を予定する。

 「OEMも1つの手だが、やはり自分たちで作って届けていきたい。工場の老朽化が激しく、新工場・新事務所について現在各所と連携しながら進めている」と語る。

 「ビーバー」を軌道に乗せた後は、ビスケットにも着手する。「米蜜ビスケット」には金沢で長い歴史を持つ飴の俵屋の「じろあめ」を使用するなど、同社では金沢・石川・北陸ならではの素材や原料を活かしたお菓子の開発に積極的に取り組んでいる。

「米蜜ビスケット ピスタチオ」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「米蜜ビスケット ピスタチオ」

 「ビスケットをアジア約10か国に輸出しており、既存のお取引先もいくつかある。八村選手がアメリカで活躍されていることもあり、チャンスがあれば今すぐにでも『ビーバー』で世界に打って出たい。熱狂をどんどん注ぎ込んでいきたい」と意欲をのぞかせる。