近商ストア 上田泰嗣社長 初のプロパー社長就任 グループ資産生かし業容拡大へ

近商ストアでは、6月の定時総会で上田泰嗣氏が新社長に就任した。伝統的に近鉄グループホールディングスからの出向が続いていたなかで、初のプロパー起用となった。上田社長は26年に迎える創業70周年を前に「業容を拡大する新たな分野にチャレンジする」方針。グループの資産と長年の経験を生かした経営の舵取りに注目が集まる。

近商ストアは電鉄系スーパーとして大阪、京都、奈良の近鉄沿線に36店舗を展開。24年3月期の売上高は580億円、前年対比0.2%減。3年連続の減収減益となった。企業成長が停滞するなか、新社長に抜擢されたのが生え抜きの上田氏。入社して以来、店長や商品本部トップなどを歴任し、現場を深く知る人物だ。

自社風土について、「真面目」と表現する。「昔は取引先に言われると嫌だったが、最近はそれが心地よく、当社への信頼の原動力だと感じるようになった。ただ内向きになってしまうことが欠点で、内向的気質をどう変えるかが課題。同業も含めて交流の機会をつくり、新しい風を吹き込みたい」という。

最近停滞していた店舗展開は、9月に建て替えオープン予定の天美店(大阪府松原市)を機に再開。また業界を取り巻く環境が厳しくなるなか、近鉄グループの資産を活用して再興を目指す。まずは近鉄百貨店とのコラボレーションから始め、これまでの業容とは違った新規分野にチャレンジする方針だ。

経営課題に「消費の二極化への対応」「人手不足を補うためのデジタル化の推進」を挙げる。

消費の二極化への対応は、アプリとポイント販促を併用しながら、ハイ&ローを続ける。「『近商ストアアプリ』は導入して3年間で利用者が11万人を超えた。近鉄グループの『KIPSカードアプリ』を8月から近鉄百貨店と当社で運用して、徐々にデジタルへと移行。また、商品政策では、PB『ハーベスクオリティ』を充実させて、現在の62SKUから100SKUに早期に拡大。健康機軸の『すこやかもん』を、情報発信できる売場を引き続き強化する」。

デジタル化対策では、電子棚札の導入、セルフレジ、キャッシュレス専用レジの拡大で対応するが、高齢者も利用しやすいフレンドリーサービスも継続。自動発注は日配での導入からデリカ、加工肉に拡大、次は精肉の予定。センター供給している店は特に精度を上げて省力化に取り組む方針だ。

今年度は売上高592億円、約2%増を目標に掲げる。当面は、状況の打開と天美店の成功に主眼を置く。「足元は厳しく販売点数が激減している。既存店の客数は前年並みだが、点数は97%くらい。9月の天美店のオープンで盛り返し、目標達成したい」。

商品、販売面では「生鮮3品と惣菜の支持をいかに上げていくか。サイズマーチャンダイジングを進めて、バンドル販売、点数アップに取り組む。加工食品で棚のよりどりセールを打ち、ニチリウのPB『くらしモア』を拡販して、安さをアピールしていく。マーケティングでは、三菱商事とクラスター分析に基づく棚割り、販促に生かしたい」と話す。

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【略歴】上田泰嗣氏(うえだ・ひろし)。1961年8月8日生まれ、63歳。大阪府出身。1984年3月近畿大学商経学部卒業、同4月近商ストア入社、2017年6月取締役商品本部長、20年6月取締役営業本部長、21年3月取締役商品本部長、22年6月取締役店舗本部長商品本部担任、23年6月常務取締役営業本部長、24年6月から現職。