自由意志への過信

米国の生理学者ベンジャミン・リベットが約40年前に行った実験では、自明のものとされている人間の「自由意志」が実は存在しないことが示唆され、論争を巻き起こした。詳細は他で調べていただくとして、被験者が行動を意識的に決定する約0.35秒前には、それを行うため脳が無意識に準備を始めていることが分かったのだ。

▼2日に起きた羽田空港事故の原因はいまだ不明だが、離陸順に関する管制官の指示を、海保機側が離陸許可と誤解した可能性が指摘されている。

▼人間はどんなに慎重なつもりでいても、自分が正しいと信じている(ことさえ意識していない)信念については、疑う余地にすら思い至らない。この種のミス全般に言えることだろう。

▼個人の自由な意志は社会の大前提。だがそれを過信することも、また大きなリスクをともなう。われわれが自由に行えると考えている意思決定の根底にあるのは、人間にはコントロール不能な偶然性、世界の複雑性だ。これに抗するには、自由意志によらず不都合が起こりえない仕組み作りが必要になる。事故防止にとどまらず、あらゆる社会制度に言えることではないか。