防災食座談会では各社の防災食の取り組み紹介のあと、各々で意見交換を行った。
ここでは「ローリングストックという言葉は知っているが、実行している人は少ない」「生活者に対してローリングストックをもっと啓発すべき」「防災食の浸透はホームセンターを含めた流通の取り組みがカギ」「東日本大震災が発生した3月と、9月の防災の日だけの啓発ではもの足りない。防災コーナーを常設すべき」「防災食コーナーでは様々なしかけを行って、楽しめる売場にして集客すべき」など様々な意見や提案が出た。
パネリスト(あいうえお順)は次の通り。
味の素株式会社 食品事業本部東京支社東日本広報グループ・大和田梨奈マネージャー
尾西食品株式会社・古澤紳一代表取締役社長
株式会社カインズ 日用雑貨SBU加工食品部部長兼CAINZ IZM・吉江孝仁防災テーマリーダー
日清食品ホールディングス株式会社 広報部・市川裕也係長
一般財団法人日本気象協会 事業本部 社会・防災事業部 気象デジタルサービス課データ解析グループ・峠茉里奈氏
カインズ、防災食も日常食の視点で
――カインズさんは防災食に対して積極的に取り組んでいらっしゃいますが、吉江部長のお話の中に防災食コーナーの「常設」というお話がありました、常設の動きは広がりそうですか。
吉江 そうですね。もともと非常食売場は非常用品売場と一緒で、工具などハード系売場にありましたが、これが昨年レジャーから加工食品に担当が移行したため、防災食も日常食の観点にもっていきたいなと思っています。毎日食べるとか、奥にしまってしまうとかではなく、防災食はストックする位置付けの食品であり、気づいたら非常食になっていたという状況を作り上げたいですね。
アルファ米の認知に努力、尾西食品
古澤社長、カインズさんの取り組みは心強いですね。
古澤 ホームセンターさんは当社の商品を昔から販売していただいており、カインズさんも積極的に防災食に取り組んでおられます。ただし、まさしくハード系の商品と一緒のところに置かれており、しかもホームセンターさんの場合は一番後ろでした。ここは人の出入りが少なく、昔はコーナーがあること自体分かりませんでした。しかし最近はカインズさんが先頭になって展開されており、ここ数年は他のホームセンターさんも取り組みを強化される動きが出ているようです。当社は長期保存食を志向しており、味の素さんや日清食品さんなど食品メーカーさんの商品とは別カテゴリーだとみてきました。消費者は、これらの違いを感じていないかもしれませんね。当社のアルファ米は水でもどり、賞味期限は5年間ですが、一般の食品メーカーさんの商品は消費期限が1年で、ローリングストックを啓発しており、もしかしたら同じものとみているのかもしれません。
しかも吉江さんが言う通り、消費者にアルファ米が知られていないのは事実です。家庭でローリングストックをしている人は結構いると言われているが、アルファ米をローリングストックしている人が何割いるかといえば、恐らくそれほどいないでしょうが、通常のカップヌードルやパックご飯などをローリングストックしている人は多いはずです。そこでわれわれにとっては、それがポテンシャルだとみています。そのためには普通に食べてもおいしいと思われる商品を届けないといけません。今後はそうした努力をどんどんしていきたいなと思っています。
――ところで「壱番屋」さんとのコラボ商品である「CoCo壱番屋監修 尾西のカレーライスセット」は、一般店頭でよく見かけますが、認知が広がったようですね。
古澤 どちらかというと「壱番屋」さんのおかげで認知が広がりました。食べてみた結果、アルファ米はおいしいと分かっていただき、アルファ米の認知拡大につながりました。
安心につながる食べ慣れた食品 味の素
――味の素さんのお話の中で、家庭内の「収納」という言葉が出てきましたが、もう少し詳しくお話しください。
大和田 備蓄食品の収納という視点では、家庭内の見慣れた場所に、食べ慣れた食品を、プラスチックボックスなどにコンパクトにまとめて保存することは安心感につながり、どんな時にも使えるというメリットがあると思います。その中には各種缶詰、レトルト食品、インスタントラーメンなどのほか、メニュー調味料や風味調味料のように慣れ親しんだ「味」も含まれます。これらが家の中の「いつも」の場所にコンパクトにまとめて収納されていれば、普段から使い慣れた食品だけに、「もしも」の時でも慌てることなく、安心感につながるのではないでしょうか。安心感が詰まった「いつも」の場所から普段の料理にも1個、2個と使えばそこに空きスペースができ、定期的に買い足すきっかけにもなります。
――大和田さんは東北の復興応援活動の経験があるそうですが、“料理する派”にとって何か気付かれたことはありますか。
大和田 「“料理する派”のローリングストック」にとって、フライパンの上のクッキングシートやまな板シートなどは本当に優れものだと思いました。“料理する派”の世界観から見ると、すごく支持されるものだと思います。カインズさんの売場でも、ぜひこのような世界観が生まれるような取り組みをご一緒できたらうれしいです。
――食品コーナーや防災コーナーだけではなく、防災食が様々な場所に広がれば、生活者の防災食に対する意識も変わってくると思われますが、いかがでしょうか。
吉江 そうですね。やはり食品の中心はスーパーですが、大和田さんがおっしゃるように、実際に料理する立場の人からみると、弊社のようなホームセンターの方が使い勝手がいいのではないでしょうか。しかしホームセンターは、そのことに気付いていないのも事実です。クッキングシートやまな板シートを使っていない人もたくさんいる中で、味の素さんのレシピ集などともリンクするようなことも面白いのではないでしょうか。
流通の現場で啓発の仕掛けを 日清食品
――日清食品さんもカインズさんへの提案はありますか。
市川 先ほどローリングストックの啓発活動について説明しましたが、一回だけ啓発しても定着するものではありません。そういう意味では、カインズさんなど流通の現場が、例えば「ボウサイ」の「サイ」をゴロ合わせで31日と読んでもらい、毎月31日を防災の日にして、継続的に店頭でイベントなどを行えば防災意識も高まるでしょうし、毎月31日になれば定期的にローリングストックとして防災食を買い足す人も増えたりするのではないでしょうか? また、お客様にも楽しみながら参加していただくことも大切だと思うので、野菜の詰め放題のように、カインズさんのBOXで防災グッズや食品の詰め放題のようなイベントをしたら、お子さんにとってもすごく楽しいと思いますし親も喜ぶのではないでしょうか? 流通さんにも売場で盛り上げていただき、われわれメーカーは防災価値のあるものを商品として継続的に提供できれば、メッセージとして伝わり、お客様の防災意識も高まるのではないかなと思います。
吉江 やはり、防災食を定期的に消費してもらうところが一番難しいところで、市川さんが話されたように、例えば31日と決め、当社の提案として、お客様には31日にはおにぎりやカップヌードルと食べてもらうような企画ができたらかなり面白いかもしれませんね。恐らくおにぎりだけでは非常食感が強いので、カップヌードルや日清食品さんの「完全メシ」のようなものと一緒に食べてもらったほうが、子どもたちにも喜ばれるでしょうね。子どもたちに喜ばれれば、自然と防災食の習慣が身につくだろうし、新しい提案になるかもしれませんね。
市川 私は尾西食品さんのおにぎりを食べたことがありますが、確かにおいしいですね。
古澤 当社商品の賞味期限は5年なので、たぶん5年間、物置の奥底に片づけてしまうケースもあるでしょう。そこで当社は個人向け防災食の課題として「物置からパントリーへ」を掲げ、普段から食べてもらえるような機会が増えればありがたく、そのために様々な商品を発売しているわけです。特にご飯は絶対的に必要な食べ物であり、防災食の中で当社のご飯は一番おいしいと自信をもって言えます。それを食べてもらう機会をどれだけつくりだすかがわれわれの課題です。先ほど吉江さんが言われた通りおにぎりだけではなかなか食べていただけないので、カレーや汁物などと一緒に食べてもらえば個人の方の食べる機会が増えてくると思います。
精度高まる需要予測 日本気象協会
――日本気象協会さんが取り組んでいる、気象条件からみた商品の需要予測プロジェクトは、食品業界や流通業界にとって画期的ですね。
峠 予測精度が非常に向上しているし気象予測精度自体も年々高まっているので、そうしたところが評価され流通や食品業界の皆さまに採用されていると思っています。
――最後に古澤社長にお聞きしますが、今回の防災食座談会はいかかでしたか。
古澤 災害に対して正しく怖がることでしょうね。災害を知ることは一番大事なことですが、われわれが生活者に向けて備蓄をしましょうといくら言っても、防災の基本的な考え方が啓発できていなければ、単にストックすればいいということになってしまいます。当社は、いざという時にどうすればいいかを常に考えており、そういった啓発に時間をかけて行っていくことが最も重要なことだと思います。
――どうもありがとうございました。この度は業種、業態、あるいは事業活動が異なる分野の方に集まっていただき、自分自身も本当に参考になりました。今回の座談会を通して参加された5名の方が、コラボレーションなど何らかの形でつながりができれば、有意義な座談会だったと思います。本日は誠にありがとうございました。