レジ前でかごの中身を一度見直す。値札は同じでも、受け取る重みが増したように最近感じる。食品売場はいまや暮らしや家計を映す鏡だ。
▼「ものの買い方が変わった」と耳にする機会が増えた。値上げが常態化し、消費者は切り詰めるのではなく、冒険を控え、失敗しない選択を求めるようになった。使い切れる量や味の想像がつく安心感、調理の手間などに価値をはかる。量か質か、その基準は日々更新され、値札の数字以上に、ものが選ばれる理由が問われる時代になった。
▼業界もその変化を肌で感じている。「節約志向は現場の知恵を引き出す圧力」と、あるメーカーは例えた。売場には大容量商品が復権し、PBの磨き直しや使い切りの小分けが増え、新商品より定番の改良が目立つようになった。容量や配合、工程を見直し、無駄を削って品質を守る、「その商品設計は節約志向と同じ論理だ」と。
▼節約は安さだけでは続かない。小さな満足や安心感があってはじめて、レジ前へかごを進めることができる。節約志向や安定志向は、縮こまる兆しではない。安定を選ぶ消費者とそれに応える現場。消費者に歩調を合わせ、信頼を積み上げる機会だと思う。
