安永元年(1772年)創業の醸造・食品メーカー、イチビキ。今年6月20日付で同社社長に就いた中村拓也氏は、98年入社。以降、生産畑一筋で歩んできた。20年6月取締役、23年6月常務に就任。トップダウンによる経営判断の迅速化と、生産・開発・営業に横串を刺した組織体制の見直しで、社内の意識・行動改革に取り組んでいる。
豆みそ・たまり醤油など独自の調味料文化を形成してきた中部エリア。そのリーディングカンパニーとして、食の継承と豆みそ・たまりの消費活性、そして自社の存在感をどのように高めていくのか。
「社長就任あいさつでは、全社に向けて『もう一度メーカーの原点に立ち返って、おいしさを追求していきたい』と伝えた。弊社はこれまで量販品を主戦場に、大量生産・大量消費、薄利多売の商いを強みとしてきた。しかし時代が変わり、特にコロナ以降のインフレ下ではそれが通用しなくなっている。お値打ちな商品作りは今の時代に合った形で磨きをかけていくが、私がやりたいのは手間ひまかけたモノづくり。われわれにはそれができるはず。イチビキは豆みそとたまりで日本一のシェアを誇っている。技術や品質の良さがないと日本一にはなれない」と中村社長。自社の立ち位置と今後の目指すべき方向性を指し示す。
「弊社はどこまでいっても老舗ローカル醸造メーカーだと思っているし、それで良い。中部で確固たる存在感を示すことができれば、おのずと全国区への道筋もできてくるだろう。豆みそ・たまりのNo.1メーカーとして全国に勝負できるような良い商品を作れば、地域性を問わずニーズは創出できると考えている」
その先導役を果たしているのが「無添加国産しょうゆ」と「厳選国産生赤だし」の2品。この5年間で「無添加国産しょうゆ」は164%、「厳選国産生赤だし」は172%の伸長。「無添加国産しょうゆ」は、令和6年度「全国醤油品評会」で最高位の「農林水産大臣賞」を受賞した。「まずはこの2品が、全国どこの地域に行っても置いてあるようにしていきたい」
また、中長期の販売戦略では、業務用と海外輸出の強化を挙げる。
「弊社は、家庭用の売上が8割、業務用が2割。これは売上額が変動してもずっと変わらなかった。とすれば、国内人口の減少が不可避な中で、確実に家庭用が減っていく。業務用の売上を戦略的に伸ばしていかなくてはならない。この方針を打ち出して、2年間で16億円を新規で獲得してきた。社内売上シェアも21~22%から26%にアップ。今後2~3年で30%、10年以内に40%まで業務用の売上構成比を高めたい」
海外輸出は、これまでEU向けにたまり醤油の販売を軸としていたが、近年はアメリカ、オーストラリア、東南アジアなどで現地展示会に積極的に出展。トップセールスも重ね、昨年ぐらいから新規で取引や売上がついてきた。「24年の海外売上は4億円ほどだが、昨対で見れば119%と着実に成果を見せている。5年後10億円を目指す」