UCC上島珈琲と丸紅は、タンザニアのコーヒー小規模生産者に対して“農家が自走できる仕組みづくり”を念頭に置いた支援を行っている。
タンザニアのコーヒー生産者のうち約9割が小規模生産者(40万人以上)で占められている。
国連の専門機関である国際農業開発基金(IFAD: イファッド)によると、世界の食糧生産の3分の1を生産している小規模生産者は、依然として貧困と飢えに苦しみ、異常気象や価格変動などの外的影響を受けやすく、国際市場や融資へのアクセスの確保に苦労しているという。

この課題解消に貢献すべく、UCCと丸紅は昨年、民間企業として官民連携「民間セクター・小規模生産者連携強化(ELPS:エルプス)」イニシアティブ第一号案件「タンザニアにおける持続可能なコーヒー生産プロジェクト」に参画。農業の生産性・持続可能性の向上と小規模生産者の増収に向けて基盤整備に取り組んでいる。
今年に入り、両社は5月と8月にタンザニアを訪問。1回目は必要資材の手配とその活用方法や農業技術のレクチャー・実演を行い、2回目は苗床(ナーサリー)が確実に運用されているかなどの進捗の確認と新芽の選別やその後の手入れ方法をレクチャーした。

8月22日、横浜市で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)のテーマ別イベント「IFAD/農林水産省共催イベント」でUCC上島珈琲の芝谷博司社長は「こうした支援は、プロジェクト開始前に、調査訪問の際に実施した農家の方たちとのワークショップで寄せられたリクエストをもとに我々の知見を活用により具体的、より効果的になるように設計されている」と説明する。
プロジェクトでは、タンザニア南西部に点在する9つの「AMCOS(アムコス)」と呼ばれる生産者組合(生産者約1300人以上)を対象に、約46万ドル(約6600万円)の予算を投じて支援活動を実施し生産量を倍増させる。
支援期間は2027年までの3年間。「支援期間後は当然、資金を継続して投入することはできなくなる。我々が意識しているのは、我々が去った後に農家の方々が自走していけるような環境を整えること」と語るのはUCC上島珈琲の中平尚己農事調査室室長。

支援のあり方を車の性能に例えると、エンジンだけ強化しても冷却装置が不具合だとオーバーヒートしてしまうように、どこかに偏らないことが肝要だという。
「農業は科学でもあり、収量が増えるとその分インプットも必要になる。通常の支援ではそのところがあまり重要視されておらず、1つ足りないものがあると、そこに対して資金を投入し、その後のフォローがあまりなされない。我々は全体を俯瞰し入口から出口までをトータルに考え、また際限なく支援できないことを踏まえて、成果が最大化するように設計している」と述べる。
全体を俯瞰した支援の一例に苗床の建築が挙げられる。苗床には、コーヒーノキの苗木とシェードツリーの苗木が植わる。
「苗床があれば種から苗木を作れて苗を買うよりも10分の1程度のコストに抑えられる。苗ではなく苗床を供給することで安価に増産や植え替えが続けられる」とみている。

中平室長によると、タンザニアはシェードツリーが不足傾向にあるという。シェードツリーはコーヒーノキに日陰をつくり日差しを和らげる効果がある。温暖化対策に有効で多くの産地での栽培には欠かせないものとなっている。
シェードツリーの選定においても全体を俯瞰して決定した。
「周辺地域の植生と合わせたものを植えるのが理想だが、短期のプロジェクトであるため、アフリカではそんなに珍しくない外来種であるグレビレア・ロブスタを選定した。比較的成長が早く、3年でコーヒーノキを追い越し5年でしっかり農園全体に影をつくってくれる。枝の張りがちょうどよく、根の深さや幅はコーヒーノキと競合しない」と説明する。
プロジェクトの始動にあたっては時間との勝負でもあり、農家の協力のもと綱渡り状態で進められていったという。

「農業は適切な時期に適切なことを行う必要があり、それを逃してしまうと1クロップ(1年間)越すまで何もできなくなる。苗植えは収穫後の12月から翌年2月頃までの雨季に行う必要があり。追肥も8月から10月の開花時期の前に投入しないと効果が薄くなる」と指摘する。
追肥を開花前に投入できれば、花が咲く前に栄養が行き渡り花の数が増え、1年後の収穫も増える算段となるが、機を逸すると開花後の成長が促されチェリーは大きくなるかもしれないが、チェリーの数は増えないという。
昨年6月の調査訪問後、同11月にワークショップを実施して苗植えやコンポストによる有機肥料のつくり方を実演。「ワークショップで農家の方々が我々のやり方を実践して下さったおかげで追肥も何とか間に合いそう」と胸をなでおろす。
コーヒーは、タンザニアコーヒー研究所 (TaCRI) が開発したコンパクト種を選定。同品種はブルボン種から派生した交配種とロブスタをかけあわせたハイブリッドで「耐病性があり、通常の品種と比べて2~3倍の収穫量を見込む」。
苗木の総数は22万5000本。9つの生産者組合に2万5000本ずつ割り当て、各生産者組合には1500~2000人の生産者が所属する。

レクチャーなどの会合には毎回、村の代表者らが20~30人集まる。
今後は12月にモデル農園でコーヒーの苗木の植樹を実演する。
「植え付け方法や、植え付ける間隔、シェードツリーの割合などを伝えていく。我々のやったことが実際どのように実を結ぶのかは、説明だけでは伝わりにくい。3年あるため、実際に我々がひと通り見せて結果が出るまで寄り添っていく」という。
数々の農業支援に携わる中平室長は、持続可能なコーヒー生産には、小規模農家の所得向上や生活水準の向上を図る必要があると訴える。
「説明をした後に農家の方々から“ハサミがない”“手袋がない”といったことを言われることが物凄く多い。森林伐採が進む国で、木材が何に使われているかというと輸出ではなく、自国で使用する建材や薪材。ガスが通っていないので薪を使うしかなく、小規模農家の方々の生活水準を上げて、そういったところを1つ1つ解決していかなければいけない」と呼びかける。