〈寄稿〉人手不足に陥るスーパー 必要なのは「そこで働く理由」 リンクアンドモチベーション コンサルタント 齊藤真哉氏

 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)

「あの店の方が給料が良いので辞めます」「家の近くに新しいスーパーができたので、そこで働きます」「人間関係がうまくいっていないから辞めます」。

多くの食品スーパーが、従業員の離職に悩み、慢性的な人手不足に苦しんでいる。「採用→離職→求人」という無限ループから抜け出せず、コストがかさんでいる企業は少なくないだろう。このループから抜け出し、安定した店舗運営を実現するためには、「選ばれる企業」であることが不可欠だ。

なぜ、食品スーパーは人手不足に陥りやすいのか。理由は大きく二つに分けられる。

一つは「大変な仕事」というイメージを持つ求職者が少なくないこと。立ちっぱなし、長時間労働、土日出勤などのハードワークのイメージが先行している。また、昨今はカスタマーハラスメントの社会問題化や、社員クチコミサイトを通じたネガティブな情報も影響し、「自分だったら働けない」と思われてしまうことがある。

二つめは「どの店でも一緒」というイメージがあること。どの店舗も業務内容や部門構成が似通っているため、「どこで働いても大差はない」との認識を持たれていることは少なくない。特別その店舗で働いている理由がないため、少しの不満でも容易に転職してしまう。

小売業界が人手不足を解消するためには、従業員や求職者に「ここ“で”いい」ではなく「ここ“が”いい」と思われることが重要だ。鍵となるのが、従業員の「エンゲージメント向上」である。エンゲージメントとは、「企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い」を意味する。

スーパーをはじめとする小売業界でも、エンゲージメントの向上に取り組む店舗が増えている。例えば、エンゲージメントが高い企業を表彰する当社主催のイベント「ベストモチベーションカンパニーアワード」では、大阪を中心に食品スーパーを展開する佐竹食品グループが、あらゆる業界の有名企業を抑えて5連覇を果たし、殿堂入りしている。今では「日本一エンゲージメントが高い会社」として知られている。

エンゲージメントを高めるために押さえておきたいのが、「エンゲージメントの4P」という考え方だ。当社ではエンゲージメントの要素、言い換えれば「人材がその会社を選ぶ理由」を以下の4つのPに分類している。

◆Privilege(待遇の魅力)

給与や福利厚生、労働環境などを指す。企業にとって待遇面を充実させることは基本だ。特に小売業は仕事内容の差別化が難しく、給与や福利厚生、シフトの柔軟性で差をつける必要がある。しかし、原資は限られており、誰かが高い給与を得れば、他の誰かが犠牲になる構図は避けられない。そのため、働き方やシフトの柔軟性などで差別化を図る工夫も大切だ。

だが、それにも限界がある。待遇面だけで差別化を図ると、「より給与や待遇が良い店へ移る」という離職のリスクが避けられないため、他の魅力とのバランスが求められる。

◆Profession(活動の魅力)

仕事の面白さや、仕事を通じた成長などを指す。小売業界にとって、もっとも差別化を図るのが難しいのがProfession(活動の魅力)だ。小売業界は、IT業界などに比べると業務が固定的であり、どの店舗でも仕事内容は大きく変わらない。ジョブローテーションなどで他部門の仕事を経験させることはできるが、それにも限界があるだろう。

◆People(組織の魅力)

組織風土や魅力的な仲間などを指す。小売業界が比較的差別化を図りやすい要素がPeople(組織の魅力)だ。「ここにいる人たちと一緒に働くのは楽しい」と感じられる組織とそうでない組織では、モチベーションや離職率が大きく変わってくるはずだ。
しかし、組織の魅力に依存しすぎると、新しい上司や異動による人間関係の変化で、すぐに「合わない」と感じ離職するリスクもはらむ。

◆Philosophy(目標の魅力)

企業の理念や経営計画を指す。小売業界がもっとも差別化を図りやすい要素が、実はPhilosophy(目標の魅力)である。仕事内容は同じでも、そこで働く意義・意味によって他店と差別化を図ることはできる。他店にはない、自店舗ならではの仕事の意義・意味を浸透させることは、軽視できない取り組みだ。

目標の魅力によって従業員を惹きつけることで、組織としての一体感が醸成され、People(組織の魅力)も高まりやすくなる。また、日々の仕事に意義を見いだすことができれば仕事が楽しくなり、Profession(活動の魅力)も高まりやすい。このように、目標の魅力を高めることで他の魅力に対しても波及効果が期待できるので、目標の魅力は特に注力すべき要素だろう。

「エンゲージメントの4P」のうち特にPhilosophy(目標の魅力)が重要であるとお伝えしたが、まさに目標の魅力を高めることで「日本一エンゲージメントが高い会社」になったのが佐竹食品グループである。食品スーパーでPhilosophyを高めることは十分に可能だ。人手不足への対策として、エンゲージメントの視点をぜひ取り入れてみてほしい。

株式会社アピ 植物性素材