食品産業センター 荒川隆理事長に聞く アフターコロナの食品界を振り返って

一般財団法人 食品産業センターは昭和45年(1970年)に設立され、会員数125企業、144団体(令和5年12月現在)が加盟しているわが国唯一の食品産業の業種横断的全国団体だ。50年を超す歴史の中で、行政と業界の橋渡し役として、食品産業界の集約した声を行政に伝えることなどにより、政策実現を図り、業界の発展に努めている。そこで荒川隆理事長に、令和5年の食品業界の振り返り、食品産業センターの主な事業活動の経過を聞いた(聞き手:金井順一)。

業績回復 外食復活 観光客増加

――令和5年の食品業界を振り返り、どのような印象をもっていますか。

荒川 早いもので昨年の今頃は、いまだにマスクを着用し、忘年会・新年会もまだまだおおっぴらにはやりにくかった状況でした。その後、昨年5月から新型コロナの感染症法上の位置付けが、それまでの「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行されたことで生活者の行動が大きく変わりました。マスク着用も個人の判断が基本になり、水際対策が大幅に緩和されたことから、入国者数の上限が撤廃され、個人の外国人旅行客の入国も解禁されたため、海外からのインバウンドも増え続けています。

私も昨年秋に神戸に出張しましたが、その際も神戸は外国人観光客であふれており、外食店には外国人でいっぱいでした。人流が回復したことで各地のイベントも再開され、国内企業の株主総会もようやく普通の形で開かれるようになりました。私はコロナ前は、犬の散歩で近くの都立公園にも出かけていましたが、当時はステイホームで公園が封鎖されてしまい驚いたことを覚えています。

アフターコロナになり、企業業績も回復し、コロナ前の2019年超えを記録する企業も多いのではないでしょうか。株価は3万2千円前後となり、賃金も上がり、安倍元総理、菅前総理、岸田現総理が10年かけてもなかなか動かなかった歯車が、ようやく動き出した印象です。食品業界にとっても、相対的にも良い1年だったかと思います。

食料・農業基本法見直しへ検討会

――食品産業センターの主な事業を振り返って、いかがでしたか。

荒川 令和4年秋から始まった食料・農業・農村基本法の検証が大きな節目を迎え、5月29日に中間の取りまとめが行なわれ、6月2日の食料安定供給・農林水産業基盤本部において「食料・農業・農村政策の新たな展開方法」が策定されました。その後、地方意見交換やパブリックコメントを経て、9月に第17回基本法検証部会において食料・農業・農村基本法見直しに関する最終とりまとめが決定し、農林水産大臣(当時)に答申しました。

農水省は、基本法見直しに関連して、食品産業に関係する三つの検討会を立ち上げました。また、自民党においては食料・農業・農村基本法検証プロジェクトチームの下に、「農業基本政策検討分科会」「農地政策検討分科会」「食料産業政策分科会」を設置し、9月から各分科会での検討が行われています。生産資材高騰対策、食料安全保障、価格転嫁、スマート農業など今後の施策展開の具体化について議論され、年末には自民党として取りまとめられました。一連の動向の中で大きかったことは、食料・農業・農村基本法の検証のなかで「食品産業の持続的な展開」がきちんと位置付けられ、検討会が立ち上がったことで、これには食品産業センターのロビー活動も貢献したのではないかと考えています。

――「持続可能な食料システム」の実現に向けた動きもありましたね。

荒川 農水省は8月から「適正な価格形成に関する協議会」と「食品産業の持続可能な展開に向けた検討会」という二つの検討の場を立ち上げ、引き続き議論の深掘りを進めていますが、食品産業センターは協議会の構成員、検討会の委員として議論に加わっております。

また、自民党の「総合農林政策調査会・食料安全保障に関する検討委員会・食料・農業・農村基本法検証プロジェクトチーム、農林部会合同会議」(昨年12月6日開催)にも食品産業センターは出席し、提言する機会を得ました。食品産業を代表して食料・農業・農村基本法や関係法制度の改正方向などの検討会に呼んでいただけるようになったことは重要なことだと思います。

なお、その合同会議には、自民党の食料安全保障に関する検討委員長であり、食料・農業・農村基本法検証プロジェクト座長でもある森山裕衆議院議員がキーパーソンとして参加されておりますが、森山先生は私どもを応援していただける自民党の食品産業振興議員連盟の会長でもあられます。

――一昨年秋以来、農水省に食品産業を政策的にしっかりした形に位置付け、後押ししてほしいと言い続けてきたが、昨年1年間で、こういう形になってつながったわけです。今年3月には食料・農業・農村基本法が改正され、その改正に組み込んでもらえるものは組み込んでもらい、さらに来年の通常国会には、食品産業に関する新たな法制度のようなものも位置付けていただけるのでないかと期待をしています。

適正な価格は国民理解が大前提

――合同会議における食料・農業・農村基本法改正に向けた政策要望には、「食品製造業の持続的な発展」「適正な価格形成」「円滑な食品アクセスの確保」「国産原材料の安定利用」「輸出の促進」「不測時における食料安全保障」「特定農産加工法充実」などの項目がありますが、値上げが相次いだ中で「適正な価格形成」が注目されましたね。

荒川 適正な価格形成の仕組みづくりについては、消費者の理解を前提として、生産者だけでなく製造業者、流通業者、販売業者など食料システムの関係者が協議して議論を尽くし、合意を得ることが重要です。また価格展開については、これを受け入れてもらうための国民理解の促進が是非とも必要であります。

価格転嫁の動きは、令和3年12月に内閣官房、消費者庁、厚労省、経産省、国交省、公取委において「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」が取りまとめられ、農水省からは「食品製造業者・小売業者間における適正取引推進ガイドライン」が発出されました。それ以降、世の中のムードが適正な価格転嫁に動いたので、その意味では政策パッケージやガイドラインは大きな意味をもちましたね。

一部のメディアでは、値上げした食品メーカーが悪者であるように報じられていますが、コストが上がれば、きちんと転嫁しなければ経営は成り立ちません。そういう意味で食品メーカーがしっかり頑張ったおかげで、適正な価格転嫁が進んでいるのは事実だと思います。あとはそれを受け止めるだけの生活者側の賃金上昇が問題になるわけです。昨年の大手企業の平均賃上げ率は3.9%、今年は5%とも言われています。

岩盤のように動かなかった国家公務員の給料も平均3.3%引き上げられ、こうした動きが地方にも波及すれば良いことだと思います。最近では経営トップの方からも、賃上げの話題がのぼるようになりました。今やゼロ回答はできない感じでしょうし、ボーナスだけでなく給料のベースが上がることはとても良いことではないでしょうか。食品産業センターの会員は、大手から中小・中堅企業までいらっしゃり、濃淡はありますが、総じて賃上げの方向に動こうとしていることは確かでしょう。

――かたや、食品メーカーにとってコストアップは間違いないわけで、これにどう対応するかが課題でしょうね。

荒川 食品メーカーからみれば、どこを狙って商品開発をするかでしょうね。リーズナブルな商品、高付加価値型の商品など狙いをどこに定めるかがポイントでしょう。ボリュームゾーンに低廉な価格で供給することも重要ですが、より高品質でより美味しいものを少しは高くてもよいという消費者ニーズは大事にしなければなりません。

「物流24年問題」製配販の連携を

――物流の2024年問題がいよいよ本番を迎えます。

荒川 食料・農業・農村基本法改正に向けた政策要望にも入れていますが、物流能力の維持確保などは食品業界にとって重要な問題です。荷待ち時間の縮減や付帯作業についての費用の明確化といった配送事業者の負担軽減に取り組むため、製・配・販での連携を図りつつ自主行動計画の策定に取り組んでいるところですが、今後も連携を深め、配送事業者も含めて相互に協力して取り組むことが重要だと考えています。現場の課題解決に向け、政府としてきめ細かく後押しすることを要望しました。

食品産業は発荷主としての立場と着荷主の立場があり、どちらかが有利とか不利とかいうような施策では困ります。どちらもしっかり対応しますが、配送業者ともしっかり連携しながら対応しなければならないと思い、そのためにもしっかりご指導してくださいと要望しています。

――食品表示制度の見直しについて。

荒川 政府は令和5年6月13日に消費者政策会議を開催し、消費者基本計画工程表を改定しました。その際、食料供給のグローバルの進展を踏まえ、合理的かつシンプルで分かりやすい食品表示制度の在り方について、国際基準(コーデックス規格)との整合性も踏まえながら、有識者からなる懇談会において順次議論していくことになりました。この間、食品産業センターは、本件表示の問題が食品メーカーの事業運営に重大な影響を及ぼすことから、数度にわたり、消費者庁から広く会員に対する説明の場を設営するなどして、業界の懸念や要望を役所に伝えてきました。

結果として、消費者庁は、国際的な議論に対し、デジタル社会の到来を視野に入れつつ、今後の食品表示が目指す方向性について議論する場として、食品表示懇談会を設置することとし、同懇談会にはセンターから大角専務が構成員として参画しています。第1回懇談会が10月13日に開催され、消費者庁から、食品制度に関するこれまでの経緯が説明されました。同懇談会では、今後の食品表示が目指していく方向性について、中長期的な羅針盤となるような制度の大枠を議論することが示されました。

また11月2日、消費者庁は「第1回分かりやすい栄養成分表示の取組みに関する検討会」を開催。検討の方向性としては、わが国の包装前面栄養表示の在り方、義務化されている栄養成分表示の見にくさや分かりづらさを補足する取り組みの観点であり、令和5年度中に3回程度検討会を行うことになりました。こちらの議論にもセンターが構成員として参画しています。

――国産原材料の安定利用、輸出の促進について。

荒川 国産原材料への切り替えが各方面から求められていますが、原材料の安定調達の観点からは、品質・量・価格の面において課題があります。そのため国産原材料の安定利用が可能となるよう、国内生産体制の拡充・強化をお願いしております。つまり、輸入原材料農産物に負けない良い品質のものを安定的に、かつ、合理的な価格で供給していただく必要があります。

また輸出促進については、加工食品は農林水産物・食品の輸出総額の約4割を占める重要物品であることから、輸出先国の販路開拓、規制の撤廃、緩和などの支援のほか、輸出先国の各種規制処置に関する情報提供など、きめ細かい支援を要望しています。

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