浸水し泥まみれの店内「最初に応援に来てくれたのはコカ・コーラさん」 みちのくコカ・コーラ、東日本大震災を経て地域に一層密着

かつて津軽藩の海の玄関として北前船が寄港して賑わった青森県鯵ヶ沢町。

2022年8月9日、この地に記録的な大雨が襲った。

降り始めから降り終わりまでの降雨量は観測史上最大の360ミリ(24時間で202.5ミリ)。

これにより青森県を流れ日本海に注ぐ二級河川の中村川が越水し、計441棟(住宅364棟・事業所等62棟・空き家15棟)が浸水。土木・農林水産・観光商工関係含めた被害総額は37億円以上におよんだ。人的被害はなかった。

記録的大雨から一夜明けた10日。JR鯵ヶ沢駅からほど近い場所にある「スーパーとびしま」は浸水により泥まみれになっていた。

惨状を目の当たりにした「スーパーとびしま」の飛嶋宏是社長はこの時、店じまいを覚悟していた。

「高さ50、60センチ程度浸水して商品が水浸しになり冷蔵ケースがダメになった。交換に2、3ヵ月かかるようだと、その間休業しなければならず、社員には“もし冷蔵庫が(2,3ヵ月間)動かなければ商売をやめる”と伝えた」と振り返る。

だが、その考えはすぐに霧消する。10日、みちのくコカ・コーラボトリングの社員がいの一番に応援にかけつけたためだ。

「最初に応援に来てくれたのはコカ・コーラさん。すげぇ世話になった。お金や冷蔵ケースは二の次。気持ちが一番大事。すぐに駆け付けてくれたのが一番大きかった。“大丈夫ですか?”と声をかけてもらい、心の面ですげぇ助かった。誠意があればどうにかなることを実感した」と感謝の意を表する。

「スーパーとびしま」前の駐車場に設置されるコカ・コーラ自販機 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「スーパーとびしま」前の駐車場に設置されるコカ・コーラ自販機

飛嶋社長からは応援を要請しなかった。

「地元の問屋さんは言わなくてもきっと助けてくれるだろうと思っていたが、まさかコカ・コーラさんが最初に来てくれるとは思ってもいなかった。180度ひっくり返る展開だっただけに、とても嬉しかった」と吐露する。

被害状況については、冷蔵ケースなど設備関係が損傷したほか、お盆前の繁忙期に向けて商品を多めに仕入れていたことが裏目に出た。

「8月12日が一年間で一番売上げが上がる日。この日に備えて、たくさん抱えていた在庫のほとんどがダメになった」という。

みちのくコカ・コーラも多分に漏れず、大雨前日までに通常より多めの飲料を納めていた。

みちのくコカ・コーラの成田純青森営業部津軽支店チーフマネジャー - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
みちのくコカ・コーラの成田純青森営業部津軽支店チーフマネジャー

「スーパーとびしま」を担当する、みちのくコカ・コーラの成田純さんは「売場にあるものは全て水を被ってしまい、その分全てを無償で交換させていただいた。あとは、どこのメーカー様よりも早かったと自負しているが、冷蔵ケースもすぐに代替機を用意して販売を再開していただけるようにした」と語る。

みちのくコカ・コーラを皮切りに各社の応援が入ったことで11日には通常の6割程度の品揃えで営業再開に漕ぎつけ、8月中に全面復旧した。

 現在、青森営業部津軽支店でチーフマネジャーを務める成田さん。被災時は五所川原駐在(五所川原市)に所属し、迅速対応の一因に被災地から比較的近隣に営業拠点を構えていたことを挙げる。在庫機能を持つ五所川原駐在から鯵ヶ沢町までは車で30、40分の距離にある。

加えて本社(岩手県盛岡市)からの指示の早さも奏功した。

「自販機が水没してしまい慌てる私に、本社から“今行ってもどうにもならないので、まずは落ち着き水が引けるまで待ちなさい”といった的確な指示が出された」と述べる。

みちのくコカ・コーラ青森営業部 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
みちのくコカ・コーラ青森営業部

本社からの的確な指示は、東日本大震災の経験によるところが大きいという。

「大震災発生当時は、毎日会議して被害状況をホワイトボードに書き出してスピーディ―に対応していったと聞く。その後、基本的な対応などが明文化され訓練も定期的に行われるようになった」と説明する。

東日本大震災以降、みちのくコカ・コーラは自治体と災害協定締結の動きを強めている。
 
2009年に6カ所(岩手県2ヵ所・秋田県2ヵ所・青森県2ヵ所)だった締結先は、23年8月時点で104ヵ所(岩手県35ヵ所・秋田県27ヵ所・青森県42ヵ所)へと拡大した。

この中で青森県では、県と県警本部を含む青森県全自治体と締結を完了したことになる。

鯵ヶ沢町の平田衛町長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
鯵ヶ沢町の平田衛町長

成田さんは、これまで各自治体との締結の地ならしに取り組んだほか、自治体や法人に向けてミネラルウォーター「い・ろ・は・す」などの備蓄を提案している。

ただし災害対応については未経験に近しかったことから、昨年の大雨では、最初、被災地との連絡のとり方に戸惑いを感じたという。

「先方様からのご連絡を待つよりも、どのような状況に置かれているのかすぐに確認したいと思ったが、連絡のタイミングなどを考えると難しかった。やはり普段からコミュニケーションしてご担当者様と携帯電話でやり取りできる関係を築いておくことが大事」と述べる。

この考えを裏付けるかのように「商品の売り込みでも何でもいいので、普段から顔を出していただき防災担当とコミュニケーションしていただくことが大事」と指摘するのは鯵ヶ沢町の平田衛町長。

「様々な協定を締結しているが、被災直後は現場が非常に混乱するため、こちらからお願いするのはなかなか難しい。最初は何が不足しているのかも把握しきれず、そんなときに一声かけていただくのが一番いい。その手段は電話でも何でもいいが、担当があっちこっち引っ張られるため、現場に入っていただくのが一番助かる」と続ける。

鯵ヶ沢町役場 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
鯵ヶ沢町役場

鯵ヶ沢町を流れる中村川が越水したのが9日午後3時頃と推定。午後10頃には水が引き始めたとみられる。

その日の夜、町役場では災害ごみの扱いなどが話し合われ、平田町長の主導のもと主に以下の施策が矢継ぎ早に打ち出され実行に移された。

――災害ごみの収集場所とルール(基本的に水に浸かったものは分別不要で全て受け入れる)の決定
――8月分の水道料金(上下水道)の無料化
――鯵ヶ沢町独自の支援金供出(床下浸水5万円・床上浸水10万円)
――鯵ヶ沢町社会福祉協議会に委託し全国からボランティアを募集

このように町として最善を尽くす一方、町民には自助を求める。

「自分のことは自分で守るのが基本。例えば避難所には着の身着のままで来ない。避難所に最初から何でもあるわけではないので。冬であれば毛布などの防寒具ほか、普段飲まれている薬や当面の飲食料品はある程度持ってきて避難していただきたい」と語る。

今回の大雨で、みちのくコカ・コーラは災害協定に基づき「い・ろ・は・す」(555mlPET)1200本を鯵ヶ沢町に提供。そのほか板柳町、中泊町、つるが市も対象に同商品を総計5712本提供した。

同社の谷村広和社長は、災害協定締結の基本的な考え方について「飲料会社とはいえ、地域の皆さんが欠かせない飲料水を提供しているということで地域のインフラの会社だと考えている」と語る。