前期(23年3月期)、34期連続の増収増益となったヤオコーは、アフターコロナによる人流回復と物価上昇という主に2つの点から、今期を過去からの10年で最も増収増益のハードルが高い“真価が問われる期”と捉える。
こうした認識のもと、コロナ禍の巣ごもり需要で伸ばした既存店売上を維持すべく、今期を“攻める3年”の最終年度と位置づけ顧客満足度向上に注力する。
5月10日決算発表会に臨んだ川野澄人社長は「コロナ前からコロナ後にかけて約10%既存店売上高の前年比が上がった状況が2年間続いた。これをどこまで維持できるかが今期のチャレンジ。原材料価格の上昇が続く中、やはりトップライン(売上高)をしっかり上げていくことに注力していく」と語る。
その方策として、ネットの販売が増加する中、五感で楽しめる売場づくりの原点に立ち返るべく、“新しいマーケットプレイスをつくる”を今期のテーマに掲げる。
「部門やカテゴリーの専門性を高めて、商品の魅力、楽しさと安さ、楽しさにあふれた賑わいある売場を実現するという思いを込めた。地域に開かれた市場(いちば)のような存在になりたい」と意欲をのぞかせる。
アフターコロナによる人流回復や外出機会の増加は、巣ごもり消費で伸ばしてきた食品スーパーの業態にとって逆風の側面が強い。
その中で、川野社長は世の中全般が物価上昇にあえいでいる点に商機を見出す。
「値上げの環境は我々の業界だけでなく、外食も含めて全ての業界に影響していることであり見方を変えればチャンス」と捉える。
このような見方から今期は、前期手応えのあった施策を継続していくとみられる。
その1つが、前期に想定以上の実績を記録したという“こだわり”への対応。
前期は、北海道フェア、沖縄フェア、離島フェアなどの各種地域フェアを実施したほか、全店で“豊洲祭り”と称した鮮魚の売り込み日を設けるなどして需要喚起を図った。
アフターコロナで外出や旅行の機会が回復した場合も各種フェアは依然有効とみている。
「そういったところ(外出。旅行)で消費をされるという方は増えるとは思うが、一方で外食を含めて、いろいろなところで値段が上がってきているため、その費用対効果を判断しながら、やはり近くのお店で買って家で楽しもうというような買い物の仕方もこのゴールデンウイークでみてとれた。“土曜日は出かけるけれども、日曜日はヤオコーで好きなものを買って発見を楽しんでいただく”ことは今後もありうる」との見方を示す。
その一方で、外出機会増加への対応として夕方以降の時間帯を強化していく。
「出勤される方も増えており、外出された帰りに買い物されるという行動は間違いなく起こっており、夕方以降の商売を充実させていく」と述べる。
足元の状況は「2月に入り消費が非常に落ち込んだことで潮目が変わり“大変なことになる”と気を引き締めた。今も決して楽な状況ではないが、3月後半くらいからは想定以上に“消費が強い”という感じを持っている」。
3月後半からの好転要因については「捉えきれていないが、1つは各社の賃上げが効いているのだと思っている。物価は上がっているが賃金も少し上がりつつあるという感覚とコロナ禍で外出・外食に使えなかった“コロナ預金”が残っていることが影響している」とみている。
エリア差が顕著になっていることにも触れる。
「ご高齢者の多いエリアでは苦戦している。年金生活をされている方は所得も増えない中で物価が上がり節約せざるを得ない。まさに二極化されており、お客様ごとに消費行動が異なっている」と語る。
今期の商品・販売戦略では、二極化対応の継続・精肉による集客と冷凍MDの強化・製造小売業(SPA)への踏み込み――3つを柱に掲げる。
二極化対応は引き続き価格コンシャスとこわだりの両面に対応していく。
価格コンシャスでは、単品で日本1売上を作ることを目的とした「日本一企画」では、ドライ食品、菓子、酒、住居の4部門で毎月1品ずつ大々的な売り込みを行っており、継続的に実施することで実際に日本1になる商品もあるなど、好評の企画となっていることから引き続き強化の構え。
こだわりへの対応としては、地域フェアほかミールソリューションにも取り組む。
ミールソリューションの好例は、イタリア輸入食品強化に向けてイタリア大使館貿易促進部との協同で開始したイタリアフェアで、ワインやカットトマト、オリーブオイルを中心にラインアップを強化してイタリア料理を日常で楽しむライフスタイルを提案することで“イタリアンといえばヤオコー”を目指していく。
精肉部門では、これまで同部門で行っていた加工肉ラインを日配部門へ移行しAI自動発注に対応させて効率化を図る一方で、より技術を要する精肉の扱いに特化していく。
SPAには23年3月にSPA推進部を設立して踏み込む。
「以前からデリカ生鮮センターで自社のオリジナル商品を作ってきたが、デリカ事業部の商品開発のみならず生鮮あるいはその他の部門に対しても供給可能な商品を原料からつくっていく」とし、その一例に規格外の青果部門の洋梨を利用したプルコギと洋梨タルトを挙げる。