〈食の産学官連携⑨〉非常食から「災害食」へ転換 「日本災害食」認証を推進 新潟大学

新潟県は、米の収穫・需要量ともに全国1位の日本有数の“お米県”。食品企業は1千社を超え、米菓やお餅、清酒など食品の出荷額は、県の工業品出荷のうち最大シェアを占める。新潟大学が2003年に設立した「地域連携フードサイエンスセンター」(センター長・西海理之農学部長)は、米を中心とした食品の機能性分析や高圧加工技術の開発、健康長寿・QOL改善に向けた摂食・嚥下(えんげ)などの分野において、地域食品企業との連携を通じて食づくりの技術革新、高付加価値化に挑んでいる。

高圧食品加工は、新潟が技術研究の中心となっている。食品加工に高圧を利用することで、従来の熱処理と比較して栄養・機能性成分の損失が少なく、素材の色・香りを残したまま食品を殺菌できる。無菌包装米飯(パックご飯)で知られる越後製菓(新潟県長岡市)など地域食品企業と行政・新潟大学など産学官が一体となって、基盤技術の集積と新たなイノベーション創出を目指している。

西海センター長は「高圧加工は日本発の技術だが製品開発面は遅れている。欧米では、物流事情の違いから賞味期限延長ニーズが強く、ハム・ソーセージなどの高圧加工が進んだ」としており、今後日本でも自然素材の色・風味を生かした果汁飲料、スムージーなどの開発に期待を寄せている。

こうした地域連携フードサイエンスセンターの取り組みに、新たに加わったテーマが災害発生時の非常食の問題だ。

センター事務局長の藤村忍農学部教授は「中越地震(2004年)、中越沖地震(2007年)の被災経験を通じて、われわれ食品研究者は非常食に埋もれていた様々な課題を認識した」と語る。

非常食は、自治体による大量備蓄を念頭に賞味期限の長さが重要とされ、乾パン・アルファ米など炭水化物を中心に一般成人向けの食品が手厚い。

「高齢者や乳幼児、アレルギーなどに配慮した食が完全に抜け落ちている。今後は食べる視点を重視し、救援従事者も含めた多様なニーズに対応した『災害食』への転換が必要」(藤村氏)としている。

新潟大学が中心となり日本災害食学会を設立。災害食の啓蒙を図る一方で、2015年には「日本災害食認証規格」をスタートさせた。非常食は基本的に5年以上の長期保存が前提だが、災害食は常温で6か月以上の賞味期間のあるものとしている。食品衛生法に則った安全性はもちろん、容器包装の使いやすさ・強度にも基準を設けている。

発熱材を備えた食事セット(ホリカフーズ)、嚥下困難者に対応したお粥(亀田製菓)など認証食品は230品目を超える。

アレルギー特定原材料不使用、低たんぱく質などを表示する「おもいやり災害食認証制度」(健康ビジネス協議会)とも連携する。「要配慮者の健康面の二次災害を防止する上で災害食の役割は大きい」(藤村氏)として、今後も災害食の研究・啓蒙を推進していく考えだ。