キリンビール ウイスキーづくり50年の歴史発信 「富士」にシングルモルトも

醸造開始から50年の節目を迎えるキリンビールの富士御殿場蒸留所(静岡県)。半世紀にわたり歩んできたウイスキー造りの歴史をあらためて発信し、ブランドの魅力向上につなげる。

「いろいろ試行錯誤してきたが、苦難の50年というのが正直なところ」。先ごろ開催した国産ウイスキー戦略発表会で、キリンビールの堀口英樹社長が吐露した。

1972年、米英2社との合弁によるキリンシーグラム社の設立に始まった同社ウイスキー事業。翌年に完成した富士御殿場蒸留所で、日本の食文化に合うウイスキー造りへ独自の技術を磨いてきた。

「いろいろ発売してきたが、当時から残っているのは『ロバート・ブラウン』のみ。ウイスキーがステータスシンボルとして拡大し、その後に縮小するなかで、3社合弁の難しさもあり理想から離れてしまった」(堀口氏)。

06年発売の「富士山麓」は一定のファンを獲得したものの、将来に向けた原酒の仕込みが困難となったことで終売を余儀なくされた。

「だが(21年に定義化された)『ジャパニーズウイスキー』への注目もあり潮目が変わった。キリンのウイスキー造りへの注目も高まり、続けてきたことは間違っていなかったと思っている」。

次の50年に向け、今年は同蒸溜所で製造する「陸」「富士」のブランド育成に注力する計画だ。

500㎖瓶で1千円台と、エントリー層も手に取りやすくコスパの高い「陸」。昨年のリニューアルを機にマーケティングを強化し、前年比約2倍に成長。認知度も大きく伸びた。独自の味わいと香りが高い評価を獲得し、「飾り気のないまっすぐさ」「食事を邪魔しない」「手に届く範囲の高級」などの声が寄せられているという。

今回は「陸」のパッケージをリニューアル。富士御殿場蒸留所のロゴを記載するとともに、新たな広告を昨年を上回る規模で実施。50万人規模のサンプリングで飲用体験機会もさらに広げる。

5千円超のプレミアム価格帯で展開するフラッグシップ「富士」は、この3年間に国内外で約10倍に伸長。海外での評価の高まりを受け、今年は海外展開もさらに加速させる。とりわけ欧米への輸出拡大に注力。ジャパニーズウイスキーの魅力を世界に発信し、30年には21年比で10倍の売上規模目指す。

50周年を記念して、顧客の関心が高まるシングルモルトウイスキーを「富士 50th Anniversary Edition」として5月23日から3千本限定で発売。操業開始した1973年当時のモルト原酒 をはじめ 、70~2010年代の各世代のモルト原酒を使用した稀少な一品だ。

富士御殿場蒸留所で約50年間使用されたポットスチル(蒸留器)を、御殿場駅に5月下旬から設置。御殿場の新たな顔として披露する。御殿場プレミアムアウトレットでは期間限定ショップをオープンするほか、御殿場市と協力したさまざまなイベントも展開。「水がはぐくむ御殿場の魅力」をPRする。