さまざまな料理や食材に最も合わせやすい飲み物は紅茶 その理由を科学的に追究してWith TEA事業に反映 三井農林

 日東紅茶ブランドで知られる三井農林は、科学的アプローチで紅茶がさまざまな料理や食材に最も合わせやすい飲み物であることを突き詰め、その調査データを家庭用・業務用でクロスMDを提案するWith TEA事業に反映させている。

 藤枝工場(静岡県藤枝市)で主にフードペアリングの調査・研究に取り組む大野敦子さんは「フードペアリングとは、食材と食材の組み合わせ、あるいは、飲み物と食べ物を合わせて“おいしい”と感じられることで、我々は特に食べ物にお茶を合わせて、よりおいしく感じられるWith TEA提案を行っている」と語る。

 With TEA提案は、2019年から営業が感覚的に提案していたのを22年頃に科学的アプローチを取り入れて進化させたものとなる。

 科学的アプローチの一端は「SCIENTIFIC AMERICAN(サンエンティフィック・アメリカン)」に公開されている「The Flavor Connection」と題した記事を参考にしている。

 大野敦子さん  - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)

大野敦子さん

 同記事では、さまざまな飲み物と食材で共通する香りを線で結んだ“香りのつながりマップ”が掲載され、ローストビーフに次いで紅茶が高い位置づけにある。

 「共通の香りが多いほどマッチングする。共通の香りは、飲み物の中では紅茶がダントツに多く、ビールや白ワイン、チーズなどの香りと太い線でつながっている。共通する香りが多くなると線が太くなる。最上位にあるローストビーフは、いろいろな香りの要素が入っている分、スパイスや調味料、ビールなどさまざまなものとあわせやすくなっている」。

 紅茶がカレーに合う原理も見える化。

 「ガスクロマトグラフという機械で香気成分を分析すると、紅茶とカレーにはリナロールなど多くの種類の香りが共通していることがわかる。紅茶にスパイスを入れてもおいしく飲めるのも、香りの共通性に理由があることがわかってきた」という。

 コーヒーでもフードペアリングが盛んに提案されているが、紅茶に比べると、香りの共通性は限定的となる。「コーヒーはもちろんロースト系の食べ物と相性がいいが、飲用シーンが紅茶と少し異なり食後がメインであることが分かってきた。したがって、紅茶はもっと食中に飲んでいただけるようにアピールしていきたい」と意欲をのぞかせる。

 With TEAを考案する際に軸足にしているのが、同調・調和・サポート・リセットの4つの香りの効果となる。
 「同調は、香りの性質が同じで、例えば甘い香りもの同士をあわせる提案となる。一方、調和は、香りが同調しつつ味わいがまとまっていること。サポートは、紅茶の香りが控えめのため、食べ物の味や香りを引き立てる効果で、リセットは油っぽい食べ物の味わいを上手く流してくれる効果となる」と説明する。

 今後は、紅茶でそばや和食と合わせるなど提案の幅を広げるべく研究を続ける。「意外な組み合わせでは分かっていない部分もあるので、その深掘りと、今まで提案できていなかった和食などスイーツ以外のところでも発信していきたい」と意欲をのぞかせる。

「#チョコWith TEA」のフローチャート - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「#チョコWith TEA」のフローチャート

 藤枝工場での調査・研究は、SNSなどのコミュニケーション活動と家庭用・業務用の営業活動と連携している。
調査・研究で得られた知見をコミュニケーションや営業活動に活かしていく流れもあれば、その逆もあり、現場の気づきを調査・研究に反映させていく流れもある。

 ペアリングを写真で効果的・直感的に伝えるInstagramでは、ペアリングに留まらずインスタライブやクイズなどを通じておいしい淹れ方など紅茶の楽しみ方を伝えている。

 Instagramアカウント運用を担当する近松直子さんは「共創・共感型で、ファンからのご意見を取り入れながら活動している」とし、今期(3月期)は4月14日のオレンジデーに、紅茶とオレンジを使ったレシピ投稿キャンペーンを実施した。
キャンペーンでは、オレンジとヨーグルトと紅茶を合わせるレシピなど社員だけでは思いつかないようなアレンジのアイデアが多く生み出されているという。

 投稿レシピの一部は店頭のPOPで「ファンの皆様が作ったレシピ」として、営業活動にも活用していくなどファンとともに価値を作り上げている点も特徴となっている。
また、昨年には日東紅茶Instagram公式アンバサダー「TEA MATE」(現在9人)を発足し、ファンと常にコミュニケーションを取りながら、情報発信を行っている。

 日東紅茶公式Twitterアカウントの運営を担当し、公式オンラインショップを管轄しているDtoC営業室所属の加藤翼さんは「With TEAは紅茶を生活に取り入れていただくことを大きなテーマに掲げており、SNSでの発信だけではなくリアルとデジタルを結ぶことに重きを置いている」と述べ、その好例として「#チョコWith TEA」と称したチョコと紅茶のペアリング訴求を挙げた。

 「#チョコWith TEA」では、チョコと紅茶のペアリングフローチャートをSNSで発信し、それを起点として、公式オンラインショップ「日東紅茶TeaMart」においてもコラムを掲載。
また、小売でも店頭POPを設置することで本ペアリング訴求を同時多発的に行い、デジタルとリアル両面からのアプローチを実現した。

 SNS発信強化とWith TEA提案強化は、コロナ禍による在宅時間の増加が発端となった。

 「おうち時間が増え外出機会が減る中で、我々ができることは何かを考え、SNSで情報発信して紅茶需要をある程度喚起できていると思っている」と振り返る。

 21年には体験型ECサイト「nittoh.1909(ニットウイチキューゼロキュー)」がオープン。同サイトは、お茶の新しい挑戦の場であり、開発者と消費者が直接コミュニケーションできる場にもなっている。

 昨年は、行動制限が緩和された中、デジタルとリアルをつなぐ機会に恵まれた。
 3月には、シェフ・パティシエの延命寺美也さんが手掛ける表参道「EMME(エンメ)」とのコラボイベントを実現した。

 「イベントでは『エンメ』さまに5つの紅茶に合うお料理をご用意していただき、ご参加されたお客さまに紅茶とお料理のペアリングを体験していただいた。その他にもbean to barチョコレート専門『Dari K(ダリケー)』とコラボイベントを実施した。ともに『nittoh.1909』とコンセプトが近しいことから、コラボ先様にもよい影響を与えられたと思っている」と語るのはDtoC営業室に所属する白戸理恵さん。

 コラボ商品の販売も好調につき、エンメ、ダリケーともにコラボ企画を継続し実施している

「水出しアイスティー」とフローズンジャムを組み合わせたデザートティー - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「水出しアイスティー」とフローズンジャムを組み合わせたデザートティー

 With TEAの調査・研究で得られた知見を活用して、スーパー、量販店など小売店へ魅力ある売場づくりの提案を加速すべく21年7月にはWith TEA推進部を新設。その旗振り役を務める笠原茂さんは「With TEAは三方よしの営業活動につながると思っている」と胸を張る。

 「クロスMDでエンドの棚を賑わし、お店にとっては競合店と差別化が図れて集客アップにつながり、来店されるお客様にとっても売場で新しい発見や楽しさを感じていただくことができる」。

 売場ではこれまでWith TEA企画として、ティーバッグに限らずパウダーを含めた幅広い商品群で、パウダーと炭酸水のアレンジドリンク、パウダーを使ったかき氷などのクロスMDを提案・実施している。

 「中でもとても好評を博したのが『水出しアイスティー』で濃いめの紅茶を抽出して、アヲハタ様の製品『まるごと果実』と合わせたフルーツティーの提案で、5つのアレンジレシピをつくりTwitterで投票を促すなどコミュニケーションとの連動も上手くいった。夏場はカレーと紅茶のクロスMDも定番企画として人気を集めている」という。

 提案にあたっては、11月1日の「紅茶の日」やクリスマス、バレンタインデー、ホワイトデーといった季節のイベントも活用している。

業務用オンラインセミナーの風景 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
業務用オンラインセミナーの風景

 業務用では、主にオフィスなどの幅広い家庭外市場と大手外食の2つのアプローチでWith TEAを推進している。

 同社は、より幅広い業態や顧客へ対応すべく2019年6月に業務用ECサイト「TEA BREAK」を立ち上げた。 担当部署に所属する 川村直実さんは「ECサイトでは企業や業態を限定しているわけではなくフルオープンで対応して年々売上げを伸ばしている。コロナ禍以降、オンラインセミナーなどを活用してWith TEAを提案している」と語る。

 2022年にはオンラインセミナーが5回実施され、ティーインストラクターが様々なテーマに沿って淹れ方やレシピを実演。2023年2月には、研究部門で培われた知見を用いてフルーツやデザート、食事とのペアリング提案を行った。

 同部署に所属する古谷野綾斗さんはオンラインセミナーを担当して多数の顧客に向けて情報を届ける一方、外食顧客へ個別の提案活動も行っている。

 2022年では、映画館に向けて新たなドリンクメニューを提案して昨年11月の導入以降、成果を上げている。
 「映画館では上映開始の10分前や20分前にお客様が来場されて、限られた時間でフード・ドリンクを提供しなければいけないという課題や、生乳を常備していないといった原材料の制約があるケースも見られる」と古谷野さんは述べ、その課題に対応した。

 「その映画館ではフルーツフレーバーのシロップと炭酸を合わせた手軽なドリンクが提供されていたのだが、杯数にはまだまだ伸長の余地があると感じた。そこで、シロップはそのままに、ペアリングの概念を活用して、お茶を組み合わせることで手軽なオペレーションながらも、これまでにない複層的な味わいを楽しめるドリンクメニューを提案したところ、杯数が前身のドリンクと比べて3倍以上になったとのご報告をいただいた」と振り返る。

左から取材に応じた松村哲弥さん、古谷野綾斗さん、川村直実さん、近松直子さん、白戸理恵さん、加藤翼さん、笠原茂さん - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
左から取材に応じた松村哲弥さん、古谷野綾斗さん、川村直実さん、近松直子さん、白戸理恵さん、加藤翼さん、笠原茂さん

 コロナ禍で大手外食への提案も変化を余儀なくされる。

 大手外食向けの部署を率いる松村哲弥さんは「コロナ禍で全般的に夜の営業が時短傾向にあり、昼の時間帯への消費のシフトが急激に進んでいる。また、あらゆるモノの値段が上がったことで節約志向が高まり、外食では、昼・節約・専門性の3つのポイントを踏まえることが必須になっている」と指摘する。

 専門性とは、お茶の場合、静岡産あるいは農園を指定したものとなる。
そうした中で、藤枝工場(静岡県藤枝市)でのフードペアリングの調査・研究について「なぜおいしいのかが言語化でき、視覚化もできる」と評する。

 業務用全般の方針は、販路拡大と既存顧客の深掘りの2つ。「大野さんの調査・研究をもとに“このような要素とこのような要素が組み合わさることで、おいしくなる”といった具合にわかりやすく伝えることで、紅茶を30年以上変えたことのなかったチェーン様にも採用されるようになった」という。

 松村さんが目指すべきは、食中飲料としてのお茶の地位向上。「白身魚に合うドリンクに白ワインが想起されるのと同じレベルで、食べ物とお茶が合わさると、こんなにも食生活が豊かになるというところまで世の中がマインドセットされるように、お客様1軒1軒に提案していきたい」と意欲をのぞかせる。