茨城県は、大消費地である首都圏に隣接する強みを生かし、鶏卵やメロン、ピーマンなど多くの品目で全国1位の産出額を誇る。茨城大学は地域の農畜産業活性化の中核を担い、「自給率向上、高付加価値化、省エネルギーなどを軸とした課題解決を図っている」(茨城大学研究・産学官連携機構)。
昨年10月に開催された「アグリビジネス創出フェア」。茨城大学が出展した「動物の味覚バイオセンサーの研究」は来場者の関心を集めた。
日本の畜産業では、配合飼料の自給率向上・コスト減を図り食品残渣を用いた「エコフィード」の検討が進むが、栄養価や嗜好性など課題も多い。研究で動物の味覚を可視化できれば、個々の動物種に最適な“美味しい”飼料を提案することも可能になる。
農学部・吉田悠太助教は「動物は言葉で味を表現することができない。個々の動物がどのように味を感じているか、草食動物や肉食動物などとヒトの食性の違いに関心を持ったことが研究のきっかけ」と語る。
まず、味物質を感知する動物の味覚受容体遺伝子をクローン化。その遺伝子をヒト腎臓細胞に導入して疑似的な味覚バイオセンサーを作製する。バイオセンサーによる解析の結果、特定の味物質に対する感受性が動物種によって大きく異なることが分かってきた。
現時点では「研究成果の社会実装に向けた具体的な計画があるわけではない」(吉田助教)としているが、今後さらなる科学的知見・データの蓄積が期待される。飼料開発だけでなく、ペットフードなど応用範囲は広いとみられる。
日本中央競馬会「美浦トレーニングセンター」のある茨城県南には、35の競走馬育成牧場がある。牧場から大量に排出される馬糞が雨水で地中に浸透し、霞ケ浦などの水質汚染が懸念されている。
茨城大学は2019年、地域企業や農業従事者などと「サラブレット堆肥エコシステムプロジェクト」に着手。2020年には馬糞を活用した完熟堆肥「サラブレットみほ」の製品化に成功し、一部ホームセンターなどで販売している。
馬糞の堆肥化には、炭素・窒素比率の高さが技術上の課題となる。微生物が大量に発生するため、作物の生育に障害になるとされてきた。同プロジェクトでは、米ぬかなどを混ぜることで微生物の発生を抑制。「サラブレットみほ」を使った土壌は保水力に優れ、肥料や農薬の使用も抑えられるという。
農学部・黒田久雄教授は「農地での使用は今後さらに拡大する見通しで、堆肥の大量生産に向けた仕組み作りを検討する。また、商品の高付加価値化・ブランド化にも取り組みたい」と意欲を示している。